強欲な取引 第四話
促すように口角を上げているユリナさんに真っ直ぐ目を見開いて見つめながら言うと、すぐさま「御名答」と手を叩いた。
私から言葉を引き出したことに勢いづいたのか、膝に肘を乗せて迫ってくるようにさらに前屈みになり、薄気味悪い笑顔を浮かべてそこに上目遣いを乗せてきた。
「なぁ嬢ちゃん、そのテッポウはなぁ、元はと言えば私らのもんなんだわ。返しちゃあくれないかなぁ?」
「ご存じの通りお嬢ちゃんと呼ばれるほど私は若くないですよ。それに、あれは北公の錬金術師たちによって開発された物です。共和国には関係の無い話です」
ユリナさんは鼻の穴を二、三度膨らませると、「開発たぁ、なぁ……。これはまたまたすがすがしいまでにデカく出たもんだな、レアばぁちゃん」と顔を曇らせた。
正確には開発とは言えないかもしれない。モンタンが持ち込んだ共和国製チャリントン三年式二十二口径拳銃をアスプルンド博士がリバースエンジニアリングしたものだ。
だが、仕組みを模倣しただけであり、形も完全に変わっている。リバースエンジニアリングの過程において多くの改良が施され、もはや原型は留めていない。
故に、独自の開発を行ったと言っても差し支えない。
だが、その“開発”という言葉がユリナさんは気に入らなかったようだ。
姿勢を戻して背もたれに寄りかかると腕を組み、右人差し指を左肘にとんとんと当て始めた。そして、鼻から息を吸い込むとゆっくりと唸るような声を出しながら吐き出した。
「まあ、いいさ。今日はそこじゃない」と気を取り直すように言い切ると両膝をパンと叩いた。
「その次の段階だよ。その銃をおたくら商会が連盟政府のどちら様かにうっぱらおうとしているらしいな?」
顔には出さず表情にも出さず、だが、内心は焦りで爆発しそうになった。そこまでは知らないでいて欲しかったというのが本音である。
誰がその事実をリークしたのかなど、考える意味など無い。
ムーバリ上佐、貴方を恨みますよ。本当に貴方は何がしたいのか。
彼がモンタンであるときに何らかの情報と引き換えにユリナさん、共和国側に伝わったのだろう。ポルッカ・ラーヌヤルヴィ独断専行の後始末のための情報交換だろうか。
誰がリークをしたのか、すぐに見当が付いたことで焦りを顔に出すことはせずに済んだ。ユリナさんは私の動揺には気づいていない。
しかし、この場で私が動揺していようといなかろうと、ユリナさんは目的を果たすために圧迫し続けるだろう。




