強欲な取引 第二話
「じゃまずは、ヒトとエルフの進化論について激論ぶちかますか。まず、エルフは人間の祖先でもあるホモ・ウテレマジカから冠進化をし、一部は現人類であるホモ・シクムアウレスに――」
ユリナさんのテンションは明らかにおかしい。
確かに、ユリナさんは戦闘においての実力も申し分ない。それ故に普段から高圧的で傲慢だが、今日はどこかいつも以上に押しつぶそうという覇気を放っている。
私にはそれが嫌な予感でしかない。
今日、私はここにお話があると言って呼び出されたのだ。しかし、お話というのは建前でしかなく、何かしらの取引を要求されるのは間違いないのだ。
それも服装からも察するにかなりの規模の取引が予想される。ユリナさんは連盟政府での偽装財団の軍服ではなく、共和国では当たり前になったスーツ姿だ。
財団の軍人としてではなく、共和国の軍部省長官という役人としてここに来ているのが見て取れる。
共和国の代表者として来ているということは、共和国対商会という大規模なものになる。
取引をすること自体は、商人として本分であり申し分ない。だが、商人としては自分たちにより有利な条件で取引をしたいのだ。それが大きければ大きいほどに。
商人が取引の話をする際、大体の場合でより有利な条件を引き出す為に代替案を持って挑むなど、自分たちが有利になるような土壌を作り上げていることがほとんどだ。
黄金捜索に共和国が絡んでいてもそこの軍のトップが絡んでいることを私は本部には報告していなかった。
というのも、まず上層部にとって特筆すべきは北公が大きく関連している点であることや、万一黄金が偶然にも大量発見されそれが共和国に流出しても商会協会の“新興国を含めたエイン・ルード通貨流通圏内での黄金流通量の維持”という目論見に影響がないこと、さらに共和国が今後どのように振る舞うかを想定した場合において、私自身がその三点を考慮した結果、報告する必要性は低いと判断したのだ。
しかし、それが仇になり、上層部は北公の動向についてばかりに偏重し報告を必要以上に要求してきたので、ユリナさんとの話し合いまでにじっくりとした下地作りの時間を取ることが出来なかったのである。
そう言った背景に加えて、ユリナさんの呈している心理的昂揚状態が問題なのだ。
何か要求を通そうとするとき、人は二つのタイプに分けられる。
傲慢になり上からだけで物を言うか、それか卑屈なまでに下手になるかだ。接し方が違うだけでどちらも根底に在るのは自分の利益だけであり、傲慢さか卑屈さを本来本人が持っている以上に発揮するようになる。
何れにせよ虚勢を張っているので足下は不安定になっており、私たち商人にとっては付け入りやすい隙になる。
だが、この人は、この人に限っては別だ。
傲慢になるタイプであることには間違いないのだが、実力の高さに裏打ちされた自信故に、その傲慢さにさえも隙が無いのだ。
相手が堕とせないとなると、私たちは長期戦を覚悟しなければいけない。しかし、長期戦ほど商機のないものはこの世界に二つと無い。
よほど売らなければいけない由々しき理由がないのなら、いっそのこと取引をしない方が良いのだ。
商機無ければ、一度引くべき。
向かいに座るユリナさんに見せつけるように、
「冗談は置いておきましょう。私には時間がありません。早速用件をお伺い致しましょう」
と私は荷物を片付け始めたような素振りを見せつけた。




