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白狼と猟犬 第七十六話

「私はそろそろおいとまするが、杖で背中を狙ったりしないだろうね?」


「バカにするな。私は旧スヴェリア連邦国の偉大なる広啓派錬金術師集団を統べた一族、ラーヌヤルヴィ家にして、理想的な平等主義者の国、第二スヴェリア公民連邦国軍下佐のポルッカ・ラーヌヤルヴィだ。

 戦士である限り、戦士としての誇りは失わない。例えどれほどスヴェンニーが差別されようともな。

 一族の誇りもそうだが、私は錬金術師で、さらに魔力も高くない。出来て背中一面に青痣を作るくらいの魔法しか使えない」


 出自やら家柄やらに誇りがあるようで強い口調でそう言ったが、私はこの女が何を言っているのか全く理解できなかった。

 人間たちの間では未だに何だのかんだのと同族同士で差別しあっているというのは聞いたことがある。人間には何族がいるらしいとかその程度だ。


「そいつぁ痛そうだな」とこぼれるように囁いた後、そのまま口を開けてぼんやり見つめていると、ポルッカは少し腹立たしげに眉間に皺を寄せた。


「何かおかしいか?」


「ああ、すまんね。実は私はエルフの国の田舎娘でね。北の果てのスヴェンニーなんてのは遠いところの話で何のことだかさっぱりなんだよ」


 ポルッカは顔を引きつらせ硬直した。しばらくそのままでいると、目をつぶると下を向きがくりと肩を落とした。


「……私はエルフに負けたのか」


 落ち込んだ様子を見せたが、すぐに顔を上げて息を吸い込むと、


「共和国のガンマンの話をし、銃は古いものだと語り、流暢なエノクミア語だが、ときどき狂う発音も特に酷いと言われるノルデンヴィズ訛りよりも強烈。

 そして、どこともしれぬその装備と雰囲気は共和国のエルフだったのか。

 やはり、違和感の通り連盟政府の民間組織なんてのは嘘なんだな。銃をあれほど立派に扱える時点で何かに気づくべきだったな」


 と気まずそうに左右を見ながら言った。


「あーあ、口が滑っちまったよ。しまったね」


「その割にどうも悪びれた感じはないな」


「なんでだろうなぁ。あんたさんへのせめてもの拍手かもな。

 しかし、共和国が北公の兵士を撃ったことで面識のないはずの二国が初対面で不穏になっちまうね。奥方に怒られてしまう。こりゃここは一端、捕虜にでもなってもらって、すぐに帰すわけにもいかないかもな。

 そういえば、あんたは奥方の眉間を正確に撃ってたな。だが、奥方はあんなもんじゃ死なない」


 ポルッカは辛そうに笑い出した。私がふざけていると思ったのだろう。


「はっはっは! ぐあっ。いや、すまない。だが、眉間を撃ち抜けぬというお前の主人は何者だ? 黒曜石の化け物か? はっはっ、いてて」


「共和国ではおそらく最強のお方だよ。名実共に。冗談じゃないが、元気にはなれたみたいだな」


 表情を変えずにそう答えると、ポルッカも笑うのを止めた。

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