白狼と猟犬 第七十四話
「発砲から次の発砲までに、あんたの動きは普通よりも多いんだよ。
銃身から支えていた右手を外して、ボルトを引いて排莢。それから左手で弾を込めるまでに僅かに時間が出来る。
左手で右利き用の銃を使うってだけの話で数秒のことかもしれないが、言葉にするとわちゃわちゃしたもんだね。ギリギリだったがその数秒の差が私に撃ち返す時間をくれたんだよ。
だが、それだけ動いた後にも関わらず、二発目の照準が全くブレないとは器用なもんだ。
まぁ、すぐ動けとか言っておきながら、移動もせずにその場で撃ち返したことに私は何も言えないがね。だが、私には必ず当てられる自信があった」
「なるほど、だから、銃に合わせるか、銃を合わせるかにしないと命取りになると私に言ったのか」
ポルッカは肩を落とし、血が流れ出している左手を見つめた。
「一発必中が出来なければ、その“糸”とやらを相手に逆に辿られるよりも早く移動しなければいけないにも拘わらず、私は仕留めなければと頑固になり外さなかった結果なのか。
逃げず隠れず、真っ向勝負。いいのは耳障りだけで、結果はこれか。なるほど、ガンマンか……」
そのまま悔しそうに下唇を噛んだが、すぐに力を抜いて壁に頭を付けた。
「私がガンマンにならずに済んだのは、最初から狙いはあんた一人だったからだ。弱い小鳥が群れるのは、猛禽類の眼を一カ所に集めないためだって聞いたことあるかい?
あんたはセシリアを狙ったり、奥方を狙ったり、関係のない民間人を狙ったり、私を狙ったり狙いが散漫だった。それ故に集中力を欠いた。それも敗因だな」
「集中は裏を返せば妄執ではないのか?」
「……んー、そうかもしれないな。だが、私は休暇が出なければあんたのことなんか放っといたさ。
言い方は悪いが、あんたは続けてたら他の誰かが何かしたさ。さしあたり、あんたの上官に遅かれ早かれシメられてただろうな」
「冷たいな。私の運が良いとでも言うのか。だが、確かに今こうして生きてはいる」
「こっちもあんたが一匹狼ガンマンになってくれたおかげで、あんた以外の北公の兵隊さんがいないからこうして説教垂れることができてるんだがな。それにもううちの兵士も辺りを抑えている」
「そうはいいつつも、狙われないように背後の石の陰からは出ようとしないな」
右手を挙げて、正解の合図を出した。
「用心に超したことぁない。だが、あんたは負けだ」
「ああ、ぐぅの音も出ないな」
ポケットからタバコを取り出した。火付きの悪いライターで何度か擦ると火が付いた。左手で風よけを作り、タバコに火を付けた。
「久しぶりだよ。タバコなんざ。匂いでバレるから人前では吸わないようにしてたがな。オマケに身体に悪いときたもんだ。久しぶりにいい日だ。いるかい?」
ポルッカは右手を上げて、寄越せというように掌を開いては閉じた。ライターと一緒に投げ渡すと震える右手でタバコのケースだけを受け取ったが、ライターは彼女の膝の辺りに落ちた。