白狼と猟犬 第七十二話
「咄嗟に張った。レンズではなくて防御の為だ。お前の銃がアスプルンド零年式二十二口径でなければ突破できなかっただろうな。だが、何故魔力のレンズについて知っている?」
息の荒いポルッカは血塗れでも睨め付けてきた。精神力も素晴らしいではないか。やはりここで死なせるのは惜しい。指導者をしていた身としては、その成長を期待してしまうのだ。
「そうかい。ま、そうだろうね。虫眼鏡で太陽見る馬鹿はいないからな。ウチの奥方は高名な魔法使いでね。聞いたんだよ。結構高度な魔法らしいじゃないか」
弾の入っていない銃口を向けたままポルッカに近づいて膝を曲げて屈み、床に転がった小銃のパーツを一つつまみ上げた。破断面は鋭利で杉綾模様を露わにして、そしてまだ仄かに温かい。それなりに時間が経ってもまだ温度があるのは、かなりの熱量で撃ち出されていたのだろう。銃の強度も相当なはずだ。
「残念だが、あんたさんのお気に入りのこれはもうオシャカだな。他の北公製の銃とは金属が違うね。やっぱりあんただけの特注品か。かなり高かったんじゃないかい?」
ポルッカは何も言わず鼻で笑うと、右手で持っていた杖を置いて足で押すように私の方へ転がした。さらに、その手で北公指定軍服であるウシャンカを取り上げて弱々しく投げ、私が屈む目の前に放り出してきた。
武器を全て投げ渡して脱帽。北公なりの降参の意思表示だろうか。
投げ渡された帽子とポルッカの顔を伺うように交互に見ると、目のあったポルッカは私の瞳の奥を見つめるようだった。
どうやら降参で間違ってはいなさそうだったので、スリングを回して銃を背負うようにして近くの崩れた壁材に腰掛け、膝に肘を突いてやや前のめりになった。
「子どもを撃とうとしたり、奥方の眉間にぶち込もうとしたり、おまけに民間人を狙ったり。どう考えても許されんが、あんたは腕だけは実にいいスナイパーだと認めざる得ないな」
「田鴫撃ち?」
痛みと出血の寒さに堪えているポルッカはそこにさらに疑問を持つように顔をしかめた。
「タシギを撃つというのは意味がよくわからないな」
「ああ、そうか。あんたらの国はまだ銃の文化が浅かったな。私たちみたいな銃で遠距離を正確に撃ち抜く奴らのことをスナイパーっていうのさ。タシギってのはすばしっこいだろ。それを撃てる者ってことだ。あんたもその力があるってことさ」
「そういうのか。民間団体のくせに色々知っているのだな」
「力は十分だが、相手が悪かったな。あんたが負けた理由を言えば、任務を外れてあちこち、そして私を狙ったことは間違いだね」
ポルッカは出血している左手に右手を押しつけて止血している。収まりはしてきたようだが、かなりの量の血が出ている。顎を落として血塗れの腕を見つめながら鼻を鳴らした。
「認めたくはないが、今こうして私は敗れた。だが、私の判断で選び出した撃つべき敵は間違えていないはずだが?」