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白狼と猟犬 第六十九話

 どれくらい時間が経っただろうか。


 日が沈み始め気温が下がり始めた頃合い。

 ありがたいことに、住民が暖房を使い始めているようで煙突は仄かに暖かくなっていたので、寒さを凌ぐために身体を寄せていた。

 埃っぽい気候のこの辺りは息も白くなる。布で口元を覆い、出来る限り立ち上らせないようにした。自らの速い鼓動と長い呼吸に口と耳を覆う布が揺らされて鼓膜にざらついた音を響かせてくる。


 落ち着きさえも取り戻すほどに粘ってはみたが、なかなかチャンスは訪れなかった。逃していただけなのかもしれない。

 利用しようとしていた西日さえも、だいぶ赤みを帯びてまぶしく輝きだしている。だが、それを利用するには的の情報が少なく動けない。


 夜になればさらに私は不利になる。利用しようとしていた日光もなくなるのだ。さらに暗闇では見ることができない。

 私が追い詰められている一方で、おそらくポルッカは魔力レンズに何らかの細工をして、暗闇でも見通すことが出来るかもしれない。


 クソ、手詰まりか……。



――しかし、諦めかけそうになったその瞬間、繋がっていた糸がふと途切れた。


 藪で纏わり付いた蜘蛛の巣が風に流されて飛んでいったかのように、狙われている気配がなくなったのだ。

 奇妙な感覚にあたりを見回した。ふと視界に入った民家の屋根の下には、住民が出てきていた。住人は老人で、私やポルッカのことなどお構いなしに弱々しい手つきでシーツを取り込んでいる。


 まさか、誘い出すために狙いを変えたのか!?


 このまま粘れば、おそらくポルッカは住人を撃ち抜く。

 そうやって住人を撃たせれば居場所は分かる。そうすれば確実に撃ち抜ける。戦時なら誰を撃とうが構わない。


 だが、今は個人的な撃ち合いだ。それに民間人を巻き込むのは、仮に私が撃ち返してうまくいったところで誰も喜ばない。


 そんなわけには行かない。


 クソ。正義を宣うなとか抜かしておきながら、私がこのザマか。どれほど正義などないと言ってもなくすことのできない無意識の正義感に訴えてきやがった。こうなると動かざるを得ない。


 だが、ポルッカが標的を変えたと言うことで一つだけわかった。


 ヤツは集中力を切らしたんだ!


 左右を見渡すと煙突が並んでいた。自分のいる煙突だけはゆらゆらと熱気を上げている。人間は魔石に依存した暖を取るので、薪はあまり燃やさないらしい。

 故に煙突からは煙が上がらないが、そのかわり熱気はよく上がる。

 人々が暖房を使い始めたことによる煙突付近の建物の廃熱による揺らぐ空気とまさに燃え尽き始めの極度の眩しさを放つ西日を利用して、ポルッカの見通しを悪く出来ないだろうか。


 だが、あまり考えている暇はない。ほとんどヤケクソだ。

 左手に鏡を載せて熱気の後ろに持ち上げた。そして、くるりと回すように動かしあえて西日を思い切り反射させて、住民を守るために動き出したふりを見せつけた。


 私はここだ! さあ、狙え! 撃ち抜け! お前が外すわけがない。


――撃ってくれ。

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