白狼と猟犬 第六十七話
南中時刻を過ぎた頃、無人エリアの西側についた。そこは完全な無人のエリアではない。村の中心部に近づいたので残った住民がまばらにほそぼそと暮らしている。
民間人のいる側を背にすれば撃てない。無関係な人間を盾にしているようで不愉快だが、民間人を巻き込むわけにはいかないというのは北公とてそれは同じはず。安易にぶっ放しては来ないはずだ。
しかし、狙ってくる相手が直情的なヤツであることは些か問題ではある。目的達成のために犠牲を厭わない、それこそが正義だとか言いそうなヤツなのだ。……まるで若い頃の私じゃないか。
ポルッカは狙撃手としての心構えは三流以下だが、狙撃そのものに対しては素晴らしい矜持が垣間見えた。自らの腕を信じており、そしてそれに値するほどの実力を持っている。
それ故に無駄撃ち、無駄殺しはしないはずだ。多少の牽制にはなるだろう。
人の盾、最悪だと分かってはいるが、私はどうしても時間が欲しかった。自分が有利になる条件が整う時間帯までの猶予だ。あくまで牽制のため、と自らに言い聞かせた。
陰を伝い移動し屋根が平坦な二階建ての家にガラスの朽ちた窓から侵入して、崩れた天井から建物の屋上を覗いた。そこには南側の縁が残っており突き出た煙突の裏側まで行くことが出来そうだった。私が行ける範囲内では、そこが一番高い位置だった。
もう少し高いところに登りたいが、私がいる場所の周辺でこれ以上高い建物はない。あったとしても、はしごを登るなど出来るわけもない。
私はそこで動かず、太陽が背中に降りてくるまで動かないことにした。季節はまだ冬場であり低くやや南寄りに沈む西日の逆光を利用するのだ。私の真後ろに夕日を来させるのが理想だが厳しいだろう。しかし、ある程度は視界を阻害することは出来るはずだ。
平坦な屋根の上にある煙突の裏にもたれかかりポケットから鏡を持ち出して、陽の光を照り返さないように鏡面を下向きに固定して立てた。そして、木の棒でゆっくりと押し、南側背後の景色が縁越しにギリギリ見えるところまで移動させて様子を覗った。
砂埃と傷のついた六インチ四方の景色に並んだ南側の建物は、二階建て、三階建てがほとんどで突出して高い建物はなかった。スナイパーならここに陣を取るだろうという場所が全く分からないのだ。
ポルッカからは私の姿は筒抜けだ。おそらく鏡を弄くり回して探っていたのも丸見えだろう。だが、撃ってくる気配はない。私がもし彼女の立場なら、私もそうするだろう。
ポルッカは私の場所を分かっているのだから、明確に撃ち抜ける条件が揃うまで待てばいい。それどころか、不必要に鏡を撃てば、自ら場所を教えるようなものだ。
少しばかりは若気の勢いに期待もしたが、撃ってくるわけもなかった。