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白狼と猟犬 第六十四話

 そう言いながら、エルメンガルト殿の家を目指し大通りのど真ん中を笑いながら堂々と歩いて行った。自分には関係ないからと言って呑気なものだ。


「先生をしばらく家から出すんじゃないよ」


 私はウィンストンの背中にそう呼びかけたが反応はなかった。

 だが、ウィンストンは聞こえていなくてもそれをわかっているのだ。そして、私に気を遣わせまいとわざと呑気な風に振る舞っているのだろう。おかげで気兼ねなく本領を発揮できそうだ。



 ウィンストンと別れて十五分ほど経った。そろそろエルメンガルト殿の家に着いているはずの頃だ。

 陰の中で冷たくなり、乾燥して触れるとぽろぽろと剥がれる焼き菓子のように脆く固まった砂漠間際の砂がついた石の壁に背中を任せて座っていた私は、腹の底を動かすように深く大きく息を吸い込んで肺の隅々にまで埃臭い空気を行き渡らせた後、ゆっくりと時間をかけて吐き出した。

 そして、背中にたすき掛けにしていたスリングを回して銃を前に向けた。ポケットから銃弾を取り出しボルトを回して銃弾を込め、再びボルトを押し込んだ。


 今のところ、込めた一発と予備の一発、合わせて二発しかない。


 だとしても、焦りや戸惑いを抱くことはあり得ない。むしろ、二発もあるという、危うい余裕すら生まれる。

 狙撃とは基本的に一発必中だ。本来なら充分な情報と冷静さ、それがある程度維持できる安全が確保された状況においての一発しか与えられない。そのどれかが揃わず、そしてチャンスを覗えなかったとしても、またの機会を狙えば良いだけのこと。

 何度も言うが、次の機会が与えられない狙撃は、狙撃ではなく運任せでしかなく暗闇に向かって撃つのと同じだ。

 犠牲者がどうのこうのというヤツは、狙撃に夢を見すぎている。

 スナイパーが第一に考えるべきは、犯人にしろ人質にしろ犠牲を厭うだの厭わないだのでその場だけの見せかけの正義を喚き散らして引き金を握ることをためらう理由ではなく、的を必ず一撃で仕留められるか否かだけだ。

 犠牲者だの、正義だのは作戦会議やら反省会やら、軍法会議やらで好きなだけ喚けば良い。


 私は帝政思想(ルアニサム)産業主義者(プロメサニーク)も、そして共和主義者でさえも対テロ作戦で撃ち抜いてきた。優秀な観測手と整えられた完全な状況のおかげで撃った弾は必ず当たった。

 引き金を握った後に考えていたことは、幾度も繰り返した的中に裏打ちされた自信により当たると分かっていたとしても、弾が狙った的に当たったかどうかだけで、人質が助かったことや作戦が成功したことは褒められるまで考えてもいなかった。

 褒められると言ってもスナイパーであるため目立つことはなく、大々的にヒーロー扱いされることはなかった。

 だが、それでもスナイパーの間では「魔弾のジル(ジル・フライシュッツ)の名は伊達ではない」と知らぬ者はいないともてはやされた。

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