白狼と猟犬 第四十九話
「おう、やれやれ」
「魔法射出式銃ではおそらく届かない! 三人、奥方の守備につけ!」
指示を出すと兵士たちは、アイマム、と返事をして、そのうちの三名が奥方を囲み、残りの二人が陰から様子を覗った。
私はアスプルンド零年式二十二口径魔力雷管式小銃のボルトを回し弾を押し込んだ。
装甲車の横についているをはしごを上り、手鏡で銃弾の飛んできた方向を確認した。
おそらくもう移動しているに違いない。だが、そう遠くへ入っていないはずだ。
現時点でこちらが防戦になっているので、少し離れたところで二発目のスタンバイをしているかもしれない。
太陽はすでに高いが、まだ東側にある。はしごに足を絡ませて身体を固定し、手鏡の角度を調整し光を建物のある方へ反射させすぎないようにして様子を覗った。
南西方向にある二階建ての廃墟のカーテンが風もなく不自然に揺れた。逆光をある程度防ぐためにそこから撃ったのだろう。
しかし、狙撃者の姿が見えないと撃つときにかける糸が見えないのだ。私は咄嗟にその動いたカーテンを狙い、そして、引き金を握った。
鞭を打ったような破裂音が廃墟を反響し、窓枠の上の壁材がはじけ飛んだ。
どうやら外してしまったようだ。
「うーん? ジューリア、ありゃ外れてねーか?」
奥方の声が隣から聞こえてそちらを見ると、上半身を思い切り出して手で日光を遮りながら目を細めていた。
「奥方、すいません。それよりも伏せてくださいって」
銃を下げて奥方の服を思い切り引っ張りながらはしごを降りた。
それから五分ほど様子を覗ったが、撃ってくる気配はなくなった。
念のためにと、ヘルメットを木の棒に乗せて装甲車の上まで上げ、何かを探っている兵士の頭の動きのように左右に回してみたが、撃たれる気配がない。
「とりあえず相手は撤退した様子です」
そう言うと同時に奥方は装甲車のはしごを登りだし、思い切り立ち上がった。
「そんなじゃ陽動にもならねぇって。狙いは私なんだろ? ほれほーれ、的だぞいぞーい」
両手を挙げて大きく振った。さらに背中を向けると腰に手を当て、徴発しているかのように尻を振り始めたのだ。
私は頭が痛くなるような気がして顔を擦ってしまった。だが、もはや止められない。諦め半分ではしごを登り、装甲車の上で踊る奥方を下から見上げた。
「奥方……、もうホントに勘弁してください。しないのは分かってますが、億が一兆が一、あなたが怪我をされてしまっては私の沽券に関わります。旦那様にも顔向けできません。
使用人の心臓を止める気ですか? ですが、とりあえず大丈夫そうですね。おや?」