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白狼と猟犬 第四十七話

「ラーヌヤルヴィ家、現代まで残る希有な錬金術師名家。

 かつてのスヴェリア内乱において技術を広めようとした広啓派。そして、ハルストロム家と並ぶ広啓派の代表格。

 だが、広啓派の中でも特に過激で、同派内部からも非難されるような姿勢を貫いていた。それ故に極系広啓派(グーリヒア)という蔑称が付けられている」


「なんだ、そんな程度のことか。この私がそれを知らないわけがない。わざわざ職務の時間を費やしてくだらないことを調べてご苦労だった。民間団体とは暇な穀潰し財団か?」


「そうだねぇ。ムーバリくんがなかなか教えてくれないから、三分も時間を無駄にしちゃったよ」


「腹の立つ言い方だな。そんな風では部下も離れていくぞ。だが、言いたいことは終わったようだな。では、そこをどけ。我々も時間が惜しいのでな」


 ポルッカは奥方の肩に手を置くとどかそうと肩を押した。しかし、奥方は動じず、その掌にゆっくりと掌を重ねた。


「待て待て。まだ終わってないぜ? 会話ってのはキャッチボールだ。前提を話した後に本題が来るのは普通だろ?

 さて、ここからが本題だ。ラーヌヤルヴィ家ってのは極系広啓派(グーリヒア)とまで蔑まれるのは何でだっけなぁ? にもかかわらず、ハルストロム家のように潰れなかったのは何でだぁ?」


 その問いかけにラーヌヤルヴィは押し黙った。何か思うところがあるのか、今度は何も言い返さずに口を一文字に結んで奥方を睨みつけているだけだった。

 奥方はその顔を見つめながら笑い続けている。このまま沈黙が流れても時間の無駄だ。派手に殴り合ってくれた方が早い。


 沈黙はまだ続きそうな様相を見せていたので、「奥方、時間がありませんよ」とせわしないふりをしながら急かした。

 だが、左手を挙げて私を制止した。そして、ポルッカの耳元に顔を近づけると、


「国家主導の“アスプルンド五カ年大計”への参加をカルルのオッサンから直々に拒否されたらしいな。ご愁傷様。だが、なんだ。ご先祖様のしたことを考えると、仕方ないね」


 と囁いた。


 すぐさまポルッカは目を見開き、肩を上げ髪を逆立てた。そして奥方から弾くように手を放し慌てて仰け反るように距離を取ると、脂汗を浮かべ始めた。


「貴様、なぜそれを知っている!? 内部に限られた情報のはず、いや、なぜ我が一族が参加できなかったことまで知っているのだ!?」


「おいおい、どうしたどうした。焦りすぎだろ。知るも何も、ムーバリくんによろしく。

 でも、まぁ、もうそれもとても順調で終盤だろ? だから、カルルのオッサンもムーバリに話したんだろ。今さらあいつのこと責めても意味ないぞ」


 奥方はまだ嘲るように軽く笑っている。目に付いたヤツを必要以上に挑発するのは奥方の悪い癖だ。

 以前の酒場での様子と先ほどからの反応を見ている限り、ポルッカはすぐに頭に血が上るタイプだ。相手が悪すぎる。

 奥方の核心を突く挑発を繰り返し受けた挙げ句、キレ散らかして暴れ出されると(奥方は怪我をすることはないだろうが)厄介だ。


「ウィンストン一人にエルメンガルト殿の護衛を任せるのは些か不安です」


「ジューリア、もっとウィンストン信じてやれよ。長年連れ添った仲だろ?」


「長年連れ添った仲だからです」


「たはーっ、辛辣。でもまぁ急ぐに越したことはないな」


 奥方は再び歩き出したので私は右後ろに付いた。しかし、奥方は二、三歩歩くと突然歩みを止めて首だけを三人組に向けた。


「お前の上司も仲間も、大変だなぁ! これから楽しみだぜ! だぁっははははは!」


 そういうと再び村の外れへと向かって歩き出した。

 背中越しにちらりとポルッカの方を視線をやると、その刹那、怨みがましい顔で奥方を睨みつけていたのが見えた。

 ムーバリを除いた北公の連中が信用に値するかどうかはまだ判断しかねるが、それにしてもこのポルッカ・ラーヌヤルヴィというのは些か厄介者のようだ。

 ムーバリがしっかり仕事をしてくれなければ、こいつは暴走する。私はその異常なまでに嫌悪を発露した顔を見てそう思った。

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