白狼と猟犬 第四十五話
セシリアが北公製の銃を持っているところを、奥方はこれまでにしばしば目撃している。
元はといえば、銃そのものは共和国が開発したものであり、セシリアの持っている銃は漏洩した機密の塊である共和国製チャリントン三年式二十二口径拳銃を北公がリバースエンジニアリングしさらにアレンジを加えたものであり、北公のさらなる機密の塊なのだ。
小銃の形をしており、共和国で流通している物と非常に似ている。しかし、その形状がどれほど似ていたとしても軍部省長官である奥方がその違いに気づかないわけがない。
セシリアが持っている銃について一度確かめるように尋ねられたことがあったが、その後特に何か言ってくる様子も無い。
何か考えがあるのか、それとも本当に興味がないのか、それは私の知るところではない。
だが、私がセシリアの銃を一時的にでも保管していることは奥方にも黙っておくことにした。ちょっとバラしてみようぜ、マヴダチのイズミの娘の持ちモンだしいいだろ、直しゃバレねぇよ、とか言い出しかねないからだ。
事態が落ち着いた翌日、共和国軍兵士の三人と女中部隊の二人をつれて狙撃地点を訪れた。
一晩も経ってしまってはもう遅いかもしれないが、狙撃者の証拠を掴むために現場の捜索に来たのだ。
私たちが撃たれた石垣は何一つ変わっていなかった。
しかし、セシリアを横切った弾丸が土を弾いた箇所は、やはりすでに何者かの手により証拠隠滅がはかられた形跡があった。
被弾箇所を中心に直径一メートルほどが円形に掘り返されたようで土も軟らかく、さらに分かりづらくしようとしたのか、そこをなだらかに埋め直していたのだ。
私たちも掘り返して篩にかけてまで捜索をしたが、弾丸はおろか金属片すら見つけることは出来なかったのだ。
モンタンは撃つタイミングを誰よりも早く察した。ほとんど狙撃者と同じタイミングといってもいいだろう。
事前にセシリアが狙撃されることは知っていたのは間違いない。
いつ撃たれるかはわかっていなかったようだが、狙撃されることを念頭に入れて動いていればいつ撃たれるかなどはわかる。
さらに不自然なのは、なぜモンタンは私とセシリアの練習場所まで顔を出したのかということだ。
共和国のクライナ・シーニャトチカ内にある村内拠点から北公の拠点は、例の酒場廃屋を中心に対角線上にあり直線距離で遠くはない。
だが、ここは無人エリアのやや北東寄りの外れだ。共和国村内拠点から北公の拠点まで帰るならばまっすぐ行けばいいはずで、ここにくるのは遠回りになる。何か目的でもなければ、わざわざ来る理由がない。
そして、もし、この周到なまでの証拠隠滅がモンタンの仕業だとしたら?
モンタンの背後にいる者はマゼルソン法律省・政省兼任長官だろうか。だが、彼は黄金探しに全く興味を示していない。奥方の話では本当に何一つ関与してこないらしいのだ。
では、連盟政府だろうか。
モンタンは連盟政府内では、ヴィヒトリ・モットラと名乗っているので顔が利く。しかし、連盟政府側のクロエやあの男は黄金を真っ先に探し始めたと言っても過言ではない。
それ故に、セシリアを撃つ理由は考えられない。
となると考えられるのは――。