白狼と猟犬 第四十四話
それから数分間、声を殺しながら目をぐしぐし押さえているセシリアを抱きしめながら装甲車の到着を待った。装甲車はものの数分後に到着したが、腕の中で子どもが泣いているとまるで何時間も待っているような感覚だった。
壁と私たちのいる場所ギリギリに停車すると、後方ではなく横の扉が開いた。そして、開くと同時に銃を構えるカチャカチャとした金属音がして、それに続いていくつもの銃口が外に向かって生えてきた。
車内の陰には共和国軍兵士と女中部隊が待機していて、ドアの両側から銃口を外に向けている。
装甲車へと石垣の壁伝いに四つん這いになり三人で乗り込むと、すぐさまエンジンがかけられ共和国軍の作戦基地へと移動を始めた。
走り出した装甲車の防弾防魔強化ガラスで出来たリアガラス越しに、遠ざかっていく弾痕を恨めしく見つめてしまった。
セシリア保護のために安全な移動が最優先であり、弾痕の捜査はできなかったのだ。あれだけはっきりとしたものを目の前にしながら探ることが出来ないことが悔しくて仕方がなかった。
基地に戻りすぐさま奥方に報告すると、「全容が見えてきたかもな」とだけただニヤつくだけだった。
この件は他の組織に報告をするかどうかについて、奥方は「黙っておいてもすぐ次が来る。次は誰が狙われることやら」と言い、報告はイズミ殿だけに留めることにした。
イズミ殿が他の勢力に報告するかもしれないという可能性については「好きにすれば良い。多分何も変わらん」と言うだけで特に止められることはなかった。
私自身、任されていたのに危険な目に遭わせてしまったことへの申し訳なさがあり、私はイズミ殿には報告するとした。
ムーバリは基地に着いて装甲車から降りると、どこかへと帰っていった。そのとき私は狙撃者に対して尋ねなかった。
知っているならば問いただすべきだが、彼は知らないと言ったので答えるまで引き留めるのは尋問になりかねない。モンタンではあるが、ムーバリでもあり、北公との関係性を考慮して必要以上に問いただすことは止めた。
今回はセシリアを守った。だが、それはあくまでモンタンの立場としてだ。
ムーバリでは守るつもりがあるのだろうか。北公の現場での最高位はムーバリ上佐であり、彼は黄金探しに前向きでセシリアとは非常に友好的だ。だが、何重スパイかも分からないヤツだ。それだけでも軽く確かめておくべきだった。
それからイズミ殿のところへセシリアを送り届けた。狙撃があったことを報告をすると一時的に訓練を止めることになった。
本人が銃の扱いを学びたいと望んでいたし今回も怪我はなかったとはいえ、この子に銃の扱いを教えると言い出したのは私である。イズミ殿アニエス殿は私を信用した上で預けてくれたのだが、このような事態が発生してしまった。申し訳ございませんでしたと頭を下げた。
叱責を受けるかと思ったが、誰かを狙ったわけではないのだが持っていれば必然的に狙われると言うことを考えていなかった、自分たちの中でのリスクマネジメントが甘かった、と逆に謝られてしまった。
全てが終わった頃にはすっかり日が暮れてしまっていた。
基地へと戻ろうと乾いた夜風の吹き抜ける廃墟を歩いていると、ふと肩にアスプルンド零年式二十二口径をかけたままだったことに気がついた。セシリアから借りた銃と三発の弾丸をそのまま持ってきてしまっていたのだ。
だが、私はすぐに返却するのはやめた。
そしてしばらく預かっておき、再開時に返却すると基地に戻ってから連絡を入れておいた。持ち続けているとまたセシリアが狙われるかもしれないのだ。そうなると早めに実戦が来てしまうかもしれない。