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白狼と猟犬 第四十三話

 私は銃で狙われていると、すぐにわかる。


 にわかに信じがたい感覚で、五感ではない、例えて言うなら第六感だ。


 私は(てき)を撃つとき、真っ直ぐ撃つ。その直線で狙うという行為をするために、目には見えない糸を的にかけるようにするのだ。その糸を張り切って引き金を握れば、弾は自ずと真っ直ぐ飛び、そして必ず当たる。


 自分がそういう癖を持っているからか、自らが狙われたときそういう糸をかけられているのを感じるのだ。狙撃者が私に糸をかけて、それを引くように相手も撃ってくる。


 しかし、先ほどはそれが一度も無かった。


 第六感などと言うまやかしを完全に信じるとするならば、先ほど狙われていたのは私ではない。

 もしかしたら、その糸の感覚を私に悟られないような手練れの狙撃手が現れたのかもしれない。それか私の感覚が鈍ったか。


 そうだとしても狙いは私ではないと考えられる。


 弾の軌道から考えると狙われていたのは、どうやらセシリアのようなのだ。私やモンタンよりも遙かに背の低いセシリアの髪の毛をかすったのは、彼女の額を狙っていたからだ。


 だが、それでは疑問が残る。

 セシリアは現在行われている黄金探しにおいて最も重要な人物なのだ。


 私はしがない女中に過ぎない。だが、撃たれるには尤もらしい理由がある。

 セシリアという重要人物にはイズミ殿の次くらいに親しい立場で、この子の持つ情報を得るには非常に有利な立場にいるのだ。それを邪魔だと考えた勢力が排除を行おうとしたと言うのは、理由としては充分考えられるのだ。

 モンタンもセシリアとの心理的な距離が近いようなので、同様の理由で狙われてもおかしくない。


 それなのに、狙撃者はなぜセシリアを撃ったのか。


 当初、イズミ殿はセシリアを偶然巻き込まれただけのブルゼイ族の女の子ということにして黄金探しの混乱から遠ざけようとして彼女の存在について言及はしなかった。

 しかし、その場でクロエという連盟政府諜報部の女によって、彼女は実は歌を知っておりそれをただ忘れているだけだということを明らかにされていた。

 仮にクロエにより明るみ出されずとも、タイミングが良すぎるブルゼイ族の孤児の出現、さらにその子をイズミ殿が娘と呼びまるで隠すかのように匿っていることなど様々な点から類推されることで、彼女が間違いなく黄金へのキーになるというのはどの勢力も気がついていた。


 本当にただの孤児だったならいざ知らず、そのような彼女を消してしまう理由はあるのか。例えば、誰かの手に渡っては困る者がいるとか。


 そして、問題は黄金が見つけられなくなるという可能性だけではない。

 万が一、消すことに成功してしまった後に、どこの誰が狙撃したのかが公になったとしよう。その実行した組織は黄金を手に入れることが出来ず、加えてさらに子どもへの銃撃をしたことへの非難も受けるというのは相当な覚悟が必要になる。

 覚悟の上での実行なのか、それとも何か対応策を持っているかのどちらかだ。


 それよりももっと基本に立ち返れば、現時点でどこの組織まで銃が浸透しているかである。私が把握している範囲では、開発した共和国、海上密輸で運ばれているユニオン、流れ着いて増えた北公の三勢力だ。


 だが、人間側の手におそらく最初の一つが渡ったとき、連盟政府からはどこも分離独立をしておらず現時点より物の移動は遙かに自由度が高かった。関所もザル同然であり他の地域への輸送は容易で、すでに広まっている可能性は大いにある。

 それか、もしかすると私がかつてしていたようなフリントロック式での狙撃かもしれない。


 せめて銃の種類さえ分かれば。弾丸が手に入りさえすれば後を追うことが出来る。


 目の前、二メートルほど先には飛んできた弾丸が作り上げたクレーターが見えている。二次曲線状にできた凹みの焦点には弾丸が埋まっているはずなのだ。


 足を伸ばしてさらにつま先を伸ばしてみたが、そこには届かなかった。

 石垣の陰からは一メートルほどはなれている。スナイパーライフルで狙われているとなると、不要に身体を光の中へと曝すわけにはいかない。

 自分の身長よりも短いような距離が無限遠に感じる。


 狙撃者はおそらく、この辺りには高い建物はないので二階の窓から撃ったのだろう。せめて三階以上から撃ってくれれば届いたかもしれない。


 撃ってくる気配を確かめるために、弾が飛んできた方向を見ようと試みた。手鏡はキラキラと光を返すのでこれ以上は不用意に使えない。壁に頬を付けさらに身体を端に寄せてみたが、見ることはできなかった。

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