白狼と猟犬 第四十一話
「そうなんだよ。私はね、ジューリアさんと同じところにもいたんだ。そこはね、軍隊なんだ。あ、でもね、君のママとはまた違う軍隊なんだけどね。モンタンっていうのは、私のそこでのあだ名だよ」
「ふぅーん、でも私にはムーバリおじさんはムーバリおじさんだよ。じゃあさ、ジューリアさんと同じなら、ムーバリおじさんも銃はじょうずなの?」
セシリアは顎を引いてムーバリに上目遣いになった。これでうまいとか言われて、じゃあムーバリおじさんに習うー、とか言い始めたら私の立場がなくなる。何ともないと装うのはヒヤヒヤするものだ。
「いいや、おじさんじゃジューリアさんにはとてもかなわないよ。銃がうまくなりたいなら、この人の言うことをよく聞くんだよ」
ムーバリは私にウィンクしてきやがった。小僧、余計な気遣いを。だが、少しホットもした。そんな私から視線を外すとセシリアに微笑みかけて話を続けた。
「この人は銃の腕前は世界一なんだ。そんな人から習えるなんて、おじさんも羨ましいくらいだよ。君のパパもジューリアさんを信じているからこそ君に教えるように言ったんだ。この人を超えるくらいにしっかり教わりなさい。世界で二番目の、まだまだ小さな狙撃手さん」
セシリアはすかさず、はい! と返事をして大きく頷いた。素直で良い子だ。そして、私の腕にしがみついてきた。どうやら私の仕事はなくならなさそうだ。モンタンは何か分かっていたかのように肩と両眉を上げた。それには思わず舌打ちをしてしまった。
「それにしても、この子は随分とあんたに慣れてるね。なんかあったのかい?」
ムーバリにそう尋ねるとセシリアの目がらんらんと輝きだし、セシリアはムーバリの太ももに飛び移って話し始めた。
「あのね、ムーバリおじさんはね、私のことたすけてくれたの! このまえ、わるい大人につかまったんだけど、パパとママのところに連れて行ってくれたの!」
セシリアはムーバリのズボンの裾を掴んだまま太ももから離れ、小さな左手で私のズボンを掴んでたぐり寄せてきた。
「ジューリアさんは銃を教えてくれるし、とってもいい人だから私のおともだち。ムーバリおじさんはつよくてかっこいいから私のおともだち。だから、みんな仲良し!」
そして、三人を引き寄せるように引っ張り、私とムーバリの足の間に入り込むようになって笑った。セシリアとモンタンを交互に見ると、モンタンはセシリアと同じように笑っていた。
「かなわんね」
「可愛らしいじゃないですか。こういうところは育ての親に似たんですよ。仲良くやりましょう。父親もそう言っているんです。仲良くしておいた方がいいでしょうね」
「そうさね。帝政思想関連は頼んだよ。あんたが帝政原理思想だとしても、奥方の、いや、ギンスブルグ、ひいては共和制への脅威は排除しなければな」
「そうですね。ですが、失礼――」
ムーバリは笑顔のまま突然素早い動きを見せるとセシリアの膝裏に足をかけたのだ。




