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白狼と猟犬 第三十七話

「それの何が悪いんだ?」


 ウィンストンは小首をかしげた。

 私はウィンストンの方には振り向かず的の方を見ながら、銃身をゆっくり下ろした。


「銃は精度が高くあるべきものだが、精度が上がったせいで兵士の銃に対する考え方が変わる。精度が上がった分、発砲率は下がるだろうな。

 フリントロック式はどこに飛んでいくかわからないという考え方はどれほど狙えても頭の中から拭えない。普通の兵士がストレスなく集中力をどれほど高めて狙って撃っても、闇雲に撃つのと変わらない。

 だから、撃っても相手を傷つけないだろうと思ってバカスカ撃ちまくれる。仮に当たっても、自分以外の誰かが撃った弾がたまたま当たったぐらいにしか思わない。

 絞首刑台の開く床と一緒だ。誰が引いたレバーで床が落ちたかわからない、ってヤツさ。

 だが、精度が上がると狙ったところに当たる確率がハネ上がる。つまり、自ら放った弾で相手を傷つける可能性が大きくなる。現時点で発砲率は九割だが、これに限らず今後精度が高い銃が普及すればおそらく二割まで減るだろう。当たっても弾数が少なきゃこれまでと変わらない。

 こいつを一般兵に持たせるようにするなら軍の教育を見直すように言いな。外すから撃たないに変わるだけじゃ無用の長物だ」


 魔法射出式銃の安全装置を付け、カートリッジを取り外し、箱の前で止まっていた女中に投げ渡した。

 ウィンストンが箱から掌を放すと、女中は箱を開けてカートリッジを緩衝材のくぼみへと収めたので、私は彼女の方へ歩み寄り銃を手渡した。


「相手を傷つけたくないってのは、優しさから来るんじゃなくて、ただ恨まれたくないだけだ。誰が悪いから撃つじゃなく、撃たなければ殺される、殺されたくなければ相手を憎め、生きるために撃てと脳みそに刻みつけろ。でないとタダのゴミだ」


 ウィンストンの方へ振り向き、手袋を外しながらそう言った。ウィンストンはそれを受け取ると、ため息をこぼした。


「まさに今さらの話だな。安心しろ。その点においては問題ないぞ。

 我々が上層部を騙くらかしたあの“死者は戦意を昂揚させ、負傷者は反対の効果をもたらす。また、負傷者を介抱するために人員を割くために著しく戦力を低下させる。”を忘れたのかね? 雷鳴系の魔法射出式銃で撃たれるととてつもない痛みが走り、さらに痺れて二、三日動けなくなる。

 だが、死にはしない。もちろん、痛みでショック死や当たりどこの善し悪しもあるので絶対では無いがな。

 つまり、誤魔化すために適当(テキトー)につけた言い訳でカバーできたのだよ。軽量化とコスト削減にも繋がった。魔石さえ確保できれば大量生産にもこぎつけられる」


「そいつは何より。貴族のお坊ちゃんの引き金も軽くなるな」


 そのとき、ふと頭の中に名前が浮かんだ。


「“猟犬は殺さぬ(コルツキ・ホルニーチ)”とでも呼びな」


 忘れる前に言っておけば、後で悩むこともないだろう。咄嗟に口に出した。ウィンストンはそれを聞くと、書類に書き込んだ。


「“猟犬は殺さぬ”。なるほど、狩人は生きたままの獲物を捕る、か。生きていれば幸福だが、どこか残酷な響きもある。良い名を付けたな。さて、そろそろ森林官として働いて貰わなければな」


 そして、女中が箱の鍵穴に鍵を挿入して回すと、ガチャリと重たい金属音がして箱は閉じられた。



 翌日から私はギンスブルグ家所有の広大な森で、森林官としての仕事が始まったのだ。

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