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白狼と猟犬 第三十三話

 ヴルムタール社でテストが行われた数日後、より実践的な試験の段階が訪れた。


 先に行われた試験で私の要望にできる限り沿ったものだと評価されたので、私はこれまでとりあえずただ前に向かって撃つということから、いよいよ具体的な狙撃を行うことになった。



 早朝に建屋に呼び出された。向かうとすでにウィンストンと女中が待っていた。待避所では無く、射撃場の真ん中に置かれたテーブルの上で仰々しく箱が開けられると、新品の油臭さと一緒に魔法射出式銃が顔を出した。

 黒光りする砲身、そこに滑らかに繋がる木製のバットはニスが塗られて表面には傷も埃も一つも無く、木目をなみなみと輝かせている。


 ちょっとばかし驚かしてやろう。まだ二人とも待避していないが持ち上げればどんな反応を見せるかと、わざとらしく手を伸ばしてみた。

 しかし、ウィンストンも女中も反応は薄かった。いつかのようにびっくりしないことに拍子抜けしてしまったが、止められることもなかったのでその手で銃を掴み上げた。

 すると、親指ほどの大きさのカートリッジを女中に渡された。それを薬室相当部位の蓋を開けて滑り込ませるように装着すると、起動音のようなピーンと高い音が響いた。


 文句を付けまくってきたここに至るまでの爆発系の物とは明らかに違う、シンプルで静かな物であるのはすぐにわかった。


 これなら狙撃には向いている。そして、これからは精密な射撃を行う。

 しかし、これまでの随分長い間、狙うという行為はほとんどせず前に向かって大砲をブッ放す様なことしかしてこなかった。

 そのような気分と手の感覚で、フリントロック式のときのような精密な射撃が出来るだろうか。やや不安があった。


 だが、これまでの実績をなめるな。こんな物すぐに使いこなしてみせる。何も変わらないじゃないか。



 早速、フリントロック式の時と同じように構えた。これはもう撃てるのだ。火薬を詰めたり、弾を込めたり、いろいろな準備がなく物足りないのか、相変わらずいつもの糸が見えない。目視だけで的に狙いを定め、引き金を握った。


 フリントロック式の鞭を打つような音ではなく、大量の空気が狭いところを一度に抜けていくような音がすると同時に黄色い光の弾が飛んでいった。そして、放たれた魔法は的の遙か左下に着弾して細く煙を上げた。


 撃つときに反動が無いのは相変わらずで、物足りなさは埋まらない。しかし、なんだこれは。正確な射撃が出来ると聞いていたが、まるで当たらない。


 だが、ウィンストンは外した私を呆れたような表情で見てきたのだ。


「この調子では採用試験に受からないぞ。銃を扱ったことさえ無いヴルムタールの社員のほうがまだ正確だな」


「黙んな。あんたは正確に撃てんのか?」


「私は持つことを自体が禁止だからな。どれほど集中して撃ったところで当てられんよ。だから君がここにいるんじゃないか」


 自分が撃たないからって好き放題言いやがって。ウィンストンに私は舌打ちをした。


「とにかくダメだな、こりゃ。触れ込み通りには真っ直ぐ飛ばないじゃないか」


「銃のせいにするのかね? これまでどれほど改良を加えてきたと思っているんだ?」


「新しいモンさ。不測の事態もあるだろ」


「……見損なったぞ、ジューリア。やはり君も懐古主義者なのか? いつまで前時代の銃に頼っている。君はいったいどの銃で的を狙ったのかね?」


 それを聞くと、敵わないとはわかっていてもウィンストンを殴り殺したくなった。


 だが、そのときウィンストンは「持っているのは魔法射出式であるのに、フリントロック式で撃つときの私特有の癖で的を狙っている」と伝えようとしたのには全く気がついていなかった。(銃オンチのウィンストンがそれを分かって言っていたかは怪しいが)。

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