白狼と猟犬 第三十二話
そして、ついに魔石は雷鳴系のものに変えられることになった。
それには、上層部にとっては適当で、私たちにとってはテキトーな理由が必要であった。そこでウィンストンのいた大学の戦史研究科講座が数年前に出した論文『負傷者の戦地における役割』の内容で“死者は戦意を昂揚させ、負傷者は反対の効果をもたらす。また、負傷者を介抱するために人員を割くために著しく戦力を低下させる。”というアブストラクトの一文で上層部をいい加減に言いくるめることにした。
「こんなもんで誤魔化せるのか?」とウィンストンに尋ねると「論文などその程度だ。後で否定する者が出てくるだけで、あることだろうが無いことだろうがその時点で嘘だとわからなければ言った者勝ち。
私は植物学を専攻して、当時は大発見と言われた例の青いバラの卒論を書いて、軍大学を出たわけでも無いのに軍人になり今では執事だぞ」と笑うだけだった。
結果、変更は提出した二日後すぐに承認された。
ああ、なるほど。
誰も何も、一行も読まずに判子を押すだけなのだな、何か問題が起きたらそのときになって検討されるのだ、とウィンストンの言った言葉の意味を悟った。
薬室相当部位の魔石を雷鳴系に変えたにもかかわらず、爆発は相変わらず起きた。威力もこれでもかと抑えに抑え、百分の一でやっと的が爆発しなくなった。
的も雷鳴系の魔法が当たったところが黒く焦げるだけの比較的絶縁性の高い素材にさせた。
雨天対応型はカートリッジについたメモリで出力を上げ、雨粒による拡散を補正するそうだ。スプリンクラーの水が降りしきる中でそいつを試射させられたときは文句が止まらなかったのをよく覚えている。
雷対策は兵士一人一人にアースを持たせて、それで何とかするらしい。そちらは試験をしていない。私もやりたくなかったのでよかったが、それで防げるのかよ、と思っても、私には何かを言う権利は無さそうだった。
その段階になってやっと狙撃としての意味を見いだせるようになり、その後も何回か繰り返し改良させた後、やっと狙撃銃として使える代物になった。
魔石のカートリッジはさらに小型化され、薬室相当部位の膨らみは無くなった。威力の低下により強度を低下させても問題が無くなり、それにより金属使用量を抑えることができて重量もかなり落とすことが出来た。
引き金を握り続けることで連続照射機能を持たせる提案をしたが、臨界点解除系統の一部である安全装置の関係と連続使用による魔力消費の速さの観点により、例の別部門への開発案提出という形になった。
正直なところを言えば、言い出しっぺのくせに私は連続照射は気に入らなかった。明らかな光線など被狙撃者に自分たちの位置を知らせるだけなので、提案こそしたがそれ以上は口を挟まないことにした。
自分がここまで魔法射出式銃の開発に関わるとは思っていなかった。その頃にはギンスブルグ家の森林官採用試験に受かれば名前を付けられるのも意外と悪くないと思い始めていた。
そして、やっと狙撃銃・突撃銃としての性能評価試験の段階にたどり着いたのだ。