白狼と猟犬 第三十一話
「さすが、伊達にフリントロック式を扱っていないな。現場での臨機応変な使い方をした者の意見は参考になる。
早速、今日中に本社には話を通しておこう。明日にでも改良が行われて、二、三日中にでも新しいのが来るだろう。
申し訳ないが、君はそれまで待機だ。あの小屋は自由に使って良いぞ。テストが終わるまでは一応君の家だからな。新しくはないが整ってはいる。食事も女中に持っていかせる。君は古代エルフのように絶対菜食主義者かね?」
「血の滴る肉と揚げモンが三度の飯より好きだね。タンパク質と油脂を心持ち満足いく形で食わなきゃどっかの皇帝一族みたいに早死しちまうよ。だが、」
待避所のドアに近づき上から下に首を動かしてそれを見た。開閉に支障が出るのではないかと思うほどに、隙間はほとんど埋められている。ノブを回したが、開くことはなかった。カバーで覆われていて見えないが、外側からも内側からも鍵がかけられている様子だ。
「こんながっちり閉じ込めやがって。交通費出すとか言っときながら移動はおたくの馬車だし、街まで送り届けるって選択肢が出てこない上に、ご丁寧に家までご用意なすって。てぇことは、テストが終わるまでは敷地外に出るのは禁止ってか?」
ウィンストンはうっかり、と両眉を上げて、掌を叩いた。
「連れてきてから伝えるようではまるで監禁だな。こちらも伝えていなかったな、はっはっは。失礼した」
「ふざけんなよ」
ドアを拳で軽く叩き、そのまま寄りかかった。
「しかし、まぁキレたいとこだが、機密だとかなんとか言ってきた時点でこうなるとは思ってたがね。盛り場もない弩田舎まで、ケツが取れそうになる馬車で毎日何時間もかけて往復するのはしんどいしな。
それに、私は無職で行く当ても無い。一軒家メシ付きで広大な敷地内のお散歩は自由にし放題なんてのは、うるさくて煙たい都市部に無理してひっついて極貧で燻ってるより遙かに楽園じゃないか。だが、小屋からここまでの徒歩の交通費はバッチリ貰っとくよ」
「君らしいな。ゆくゆくは森林官になるのだ。ギンスブルグの森について知っておくのも良かろう。東屋のある広場は気持ちが良いぞ。荷物は後で女中たちに取りに行かせる。今借りている家の賃貸契約も任せておけ。君はこれから銃のことだけに集中したまえ」
「さっきの感じじゃあ女中どもが庭を巡回してるんだろ。至れり尽くせりなこって。まぁ撃たせて貰えれば問題ないね」
それから私は新しいのが来る度に毎回必ず文句を付けまくって改良を繰り返させた。出力を一割以下に抑えたものであっても、二、三回はマットに埋もれることになった。
そのうちに下げすぎだとついに上層部から言われたらしく、結果的に威力が高いものについては新たに別の計画が立案されて、そちらはそちらで何処ぞの企業が開発に着手しているらしい。(応用魔術兵器開発計画というそうだ)。
それでもなお威力を下げ続けたが、炎熱系ではやはり爆発は免れず的に当たると同時に起こる爆発で木っ端みじんになってしまう。
今回の試験は威力ではなくより実践的な物を求めているので、いよいよ魔石の種類変更が視野に入り出した。