白狼と猟犬 第二十七話
早速、試し撃ちをすることになった。
待避所から出ると女中は無駄のない動きで準備に取りかかった。銃を箱から丁寧に運び出して銃口の向きを指さし確認をしたあと、フリントロック式なら火打ち石があるところ当たりのこぶし大の隆起を開けて、一インチ立方ほどの黒い箱を入れていた。それはビードが目立たないように完全な溶接が施されていて簡単には開けられ無さそうだった。
箱を入れて蓋をすると、横の小さなレバーを下ろした。どうやらその黒い箱の固定をしたようだ。同時にブンと蜂が耳元で羽ばたいたような音がした。
すると、ウィンストンと女中は頷き、私の方を向いて準備が整ったと言った。
銃本体だけで弾丸は渡されなかった。銃弾について尋ねると、魔石に蓄積された分だけ撃てるらしい。
では早速とむんずと鷲づかみにしようとすると、またしてもウィンストンと女中は焦りだした。後は撃つだけだが、我々が待避してから持ち上げろと言って、ゴーグルとイヤーマフを渡してきた。こんなものいらない、というと、ウィンストンはしなければ話は全て無かったことにすると言ったのだ。
ゴーグルのオレンジ色のせいで見にくくなると文句をブツブツ言いながらしぶしぶ付けて、二人が先ほどの待避所に入るのを待った。
振り返り待避所の方を見ると、窓ガラス越しにウィンストンが右手の平をこちらに向けてゴーサインを出している。
他人事だな、と舌打ちをしながら私は銃を持ち上げた。渡された銃はフリントロック式の物よりも少しばかり重かった。銃身内部に金が使われているためで仕方がない。
だが、構造はほとんど変わらない。先ほどの黒い箱の収納位置が視線の妨げになるかと思ったが、それはなさそうだった。バットを肩の内側に収めて、銃身を抱えた。そして、簡単に付けられた照準を元に的を見た。距離はおよそ三百三十フィート。
弾は無い。実体が無いので込める必要は無い。いつもの発砲までのプロトコルをスキップしなければいけない物足りなさがあるが、手間が省けると自分に言い聞かせ気を取り直した。
狙いが定まり引き金に人差し指を伸ばしていく。冷たい金属をなぞり、握らず沿わせるように指をあてがう。
しかし、いつもの“糸”が見えない。当たる、当たらないではなく、それが見えないのだ。
とはいえ照準は合っている。引き金を引けば確実に的に当てられる。はず。
だが、あの糸が見えないことがやはり気になる。新しい銃と言うから感覚も異なるのだろう。撃てばわかるはずだ。
集中力があと少しで高まる。そしたら糸も見えるだろう。
ゆっくりと引き金に指をかけた。