白狼と猟犬 第二十五話
練習場というのは窓のない建物で、如何にも突貫で作られた四角い建物だった。ウィンストンが金属のシャッターを開けると建屋内に外の光が差し込み、それを追いかけるように入口側から照明が順番に点いていった。
窓も無い上に締め切っていたので湿気ているかと思ったが、換気はされているようでごうんごうんと空気の流れる音がしている。風は全く感じないのが不気味で、換気という意味合いよりも消音でもしているのではないかと思った。
ヒヤリとしている空気の中へウィンストンと女中に続いて入り建屋内をぐるりと見回すと意外に奥行きがあり、そして遠くに小さな的がたっているのが見えた。目を細めてよく見ると、それもかなり小さい物だと気がついた。
床は発射ブースまではコンクリートが敷き詰められており、その先は土がむき出しだ。背後の壁には分厚いマットが所狭しと敷き詰められている。
建屋の中にあるガラス張りの小部屋へとさらに導かれた。私はそこでその最新式と言われる魔法射出式銃と対面することになった。
部屋の中心にある木製の机の上には頑丈そうな金属製の箱が置かれていた。箱の表面には“ヴルムタール社 魔法射出式銃 試作型”と書かれており、三個の鍵穴があった。
メイド二人が両サイドの鍵穴にそれぞれ異なる鍵を入れて同時に回し、さらにそこへウィンストンがまた別の鍵を挿して回すと、ジャッジャッと内部の機械が動くような音の後に箱が斜め上にスライドするように開いた。
内側にはさらに木箱が入っていた。企業秘密であり、そしてこれまで帝政ルーアには無かった新技術なので、これでもかと言うほどの厳重な管理がされていた。
まだ出来たばかりの代物なのか、箱が開くと同時に漂った工場の油臭い感じが鼻の奥に付いた。そのせいで新しい物への期待で胸が膨らんでしまい、早く見たいと気持ちがせいてしまった。
早く開けろと催促するとウィンストンは頷いてさらに中蓋を開けた。すると魔法射出式銃がついに顔を出したのだ。
だが、これまでの仰々しさとは裏腹に、魔法射出式銃の見てくれはこれまで使っていたフリントロック式銃と大きくは変わらなかった。およそ三フィートほどの砲身は黒光りしていて、そこに繋がる引き金も同じ金属で出来ている。フリントロック式なら引き金の上の方にあるはずの火打ち石が入るような隙間はない。その代わりその当たりにこぶし大ほどの膨らみがある。
それ以外は何も変わらない。何だ、楽勝だろう、そう思ってひょいっと持ち上げると、私以外の三人は慌てだした。女中二人は頭を押さえて屈み、ウィンストンは両手を突き出して私に銃を置くように声を荒げた。
新型の銃は魔法を打ち出す銃だ。とんでもなく威力があるかもしれないので、取り扱いは気をつけろとのことだった。
銃をこれ見よがしにそっと箱に戻すと、三人はため息をして胸をなで下ろした。
ウィンストンは「好奇心旺盛なのは関心だが、見境無く手を突っ込むな」と脂汗を浮かべた額を拭い、銃の説明を始めた。