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白狼と猟犬 第十八話

 橋の攻防で指揮をとっていたヤツが最初に面接をしたあのデブ――私を給仕か看護婦希望だと決めつけた出歯亀――だと知ったのは、命令違反で呼び出されたときだった。

 一人先走った違反行動についてと、ならばなぜせめて撃ち殺さなかったのかについての理由を一方的に詰問され、こちらが撤退せざるを得なくなったのはお前のせいだと咎められた。

 こちらの犠牲を少なく抑えて、相手に負傷者を出して士気を下げるつもりだったって言い訳したよ。


 だが、聞いちゃいない。まぁそうなるだろうとは思ったがな。


 その上官殿は私が出世して席を奪われるのにビビったんだろう。これ幸いに私を処分したさ。後方で短いタイトスカート履いて判子押す係になるか、俺のものになれと抜かしてきたもんだ。


 それを言われて、気がついたら銃身を振りかざしてたさ。「軍もくだらねぇなぁ。テメェのゲボのような指揮でどれだけ死んだと思ってんだ。クソ采配の責任を他人に押しつけんなよ、ハゲラードが」ってソイツを銃の台尻でぶん殴って半殺しにしてやったさ。

 ズレたズラの前髪で隠れた顔と、抜けた奥歯が飛び出て窓ガラスに当たった音は今でも忘れられないな。血塗れでくしゃくしゃの書類が投げつけられて、当日中に除隊さ。はっはっはっ!


 殺人未遂で捕まらなかったのは、そのハゲラードがあまりにも無能だったので軍上層部も大目に見てくれたらしい。だが、次に日には荷物まとめて追い出された。


 帝政ルーア軍首都鎭臺連隊の基地入り口にある重たい大型片引き門扉のキャスターが砂利を巻き込み弾けさせる音を背中に受けて、空を見上げた。雨上がりの綺麗な空だった。


 さぁまた職無しか。


 銃の腕で喰って行くために、猟師にでもなるか。だが、長年愛用したフリントロック銃はハゲラードの脂っこい血で塗れた挙げ句、没収されちまった。きたねぇ脂は綺麗さっぱり落とされて、次は誰が使うのやら。しばらくはオイルを差さなくて済むだろう。


 どうしたものか。思い切り伸びをしてまだ湿っていた空気を吸い込みながら街へ向けて歩き出した。


 金持ちの男どもでも侍らすか、とは思ったが鍛え上げられた腹筋はまるで蟹のように綺麗に別れており、腕も肩もグラントルアに来たばかりに比べると倍の太さになっていた。それを見る度に自分でも鼻の穴が膨らむほどに誇らしい。

 変態マゾ気質で筋肉女フェチの男など少数で探すのは無理だろう。もとより股を開くつもりはなかったが。


 どうしようもないが、まぁどうにかなるだろう。

 軍は不名誉除隊以下のクビなので退職金などありもしない。洋服はワッペンを剥がされた軍服をそのまま寄越された。さすがに素っ裸で追い出されるようなことはなかった。しかし、今回は前とは違い、残っていた給料とその服以外は何もない。長くは持たない。

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