白狼と猟犬 第十六話
今考えれば、フリントロック式の銃で狙撃などというのは常軌を逸している。自分自身でもそう思うほどだ。だが、そのときから何一つ変わらないのが、当たるときの“予感”というのか、弾丸がどう飛ぶかが見える感覚だ。
私には、少なくとも私には狙うべき的へと伸びる、目には見えない糸が見える。
集中していくとそれは張り詰めていく。そして、いよいよたるみが無くなり、張り詰めきった糸が真っ直ぐになった瞬間、その糸をさらに張るように引き金を握ると、弾丸は必ずその糸の先に当たるのだ。
その感覚は自分が狙ったときもそうだが、狙われているときも感じるのだ。まるで、細い糸が皮膚の上を触れるか触れないかわからないほどの距離で撫でていくような、やがてそれは張り詰めていくような、私が確実に当てるときにすることを、私を狙う誰かもしているのを感じるのだ。
その感覚を引き金を握る度に自分の中で鮮明にしていき、やがては百発百中になった。そしたら、いつのまにか“魔弾のジル”という二つ名が付いていたんだ。
魔弾だと? ふざけるな。悪魔に頼らなくても当てられる。私は私の実力で当てるから、ザミエルはお呼びじゃない。
当時はその二つ名が反吐が出るほど気に入らなかったから、呼ばれてもひたすらに無視をしていた。
人間たちは帝政ルーアと連盟政府との国境を川と呼んでいた。それを越えてきた彼らとの戦いが増え、私も戦地にかり出される機会が増えた。
敵方に魔法が使える者が多いと、こちらがモチベーションはそこまで高くないが戦力的に多数であったとしても、押され気味になるのだ。
そして、ベタル平原での戦いでの敗北を機に世間は戦争ムードが強まった。銃歩兵科の貴族のお坊ちゃんもいよいよかり出されることになったのだ。
その数日後に行われた戦い、ムルハ森林地区奪還作戦で、当時はまだいた大型の魔物使いと弓兵による音の少ない奇襲作戦(気づかれたが)により前線を川まで押し戻すことに成功した。
そして、その直後にあの橋の攻防があった。
人間側の領土へ攻め込むつもりはなかったらしいが、今後再び攻め入られないように橋の先までは制圧しておこうとなったらしい。
私たち銃歩兵科は橋の共和国側にある木の上から敵方を撃てと命令が出ていた。撃つのは押され始めたらであり、指揮官の撃ち方始めの合図で木の上から一斉射撃をするそうだ。
橋はかなり長い橋だ。作られたのは遙か昔だが、石造りのそれはまだ立派に現役だった。それに相手はたかだか人間三人。出番はないだろうとのんびり構えていたら、なんとこちらは押され始めてしまったのだ。
グリズリーみたいなデカいヤツと如何にも戦いが好きそうな男と年ばかり食ってそうなローブの男の三人は次第に攻勢を強め、橋の真ん中を過ぎてさらにこちらへと押してきたのだ。
ムルハ森林地区奪還作戦と橋での攻防における人間側の戦いは『デオドラモミの錬金術師』(第五十二部分~第六十二部分)で描かれています。