白狼と猟犬 第十四話
「私はウィンストン、ウィンストン・オブライエン。元はウェストル地方の家系だ」
「デカブツが多いともっぱら言われる西の生まれか。なるほどね。私は、ジューリアだ。ジューリア・ヘンズローブ。ノザニア地方の生まれだよ」
「なるほど。美人なワケだな、わっはっは」
「デカい動きで笑うんじゃないよ。邪魔だ」
こいつにはどうしても勝ちたい。だが、どうやっても勝てない。そのときはそう思った。
それからも何度か挑んだ。
確かに格闘技は力だけではない。だが、それでも抑えきれないほどの筋力だった。それだけではなくて、受け身から何から自らの身を守ることに関しては、天然とは思えないほどに長けていたのだ。
こちらが技をかけようにも硬い筋力で通用せず、かけられたとしてもすぐに解かれる。極めつけは、体力も相当なモンだったことだ。
私がどれだけやっても微動だにせず息も上がらないので、最後はいつもこっちが体力負けしてしまう。
ウィンストンのせいで格闘好きな連中の間で私の立ち位置は常にナンバー2で、それがどれだけ悔しかったか。そのとき、自分の身体が女であることの限界を感じた。
誰よりも強くなりたいとかそんなのはどうでも良かった。ただただ自分が強くなる実感が欲しかったんだよ。知識教養が無くてもひたすらに強ければ生きている実感を得られることに気がついたんだ。
だから、軍に入って初めて味わった敗北に落ち込んでいる暇はなかった。筋肉の限界があるなら他で強くなればいい。だが、どれがいいのか。自分に合っているのか。
そして私が行き着いたのは、銃歩兵科だった。
理由は聞けばしょうもない。
ウィンストンは射撃がどうしようもないまでに下手くそだったからだ。フリントロック式の銃の扱い方を体験する訓練みたいなのが一度あった。そのときにウィンストンは準備の段階で銃を壊したり、前に向かって撃っているにも関わらず三個ほど隣の的に命中したり、後ろの窓ガラスが割れたりともともと低い命中率に加えて致命的に相性が合わなかったんだ。
「何が何でも的をはずそうとする才能は認めてやろう。だが、お前が撃てば自分以外の味方に当たる。危ないから二度と触るな!」と顔を真っ青にした上官に怒鳴り散らされて、申し訳なさそうに後頭部を掻いて小さくなっているウィンストンを見て決めたのさ。