白狼と猟犬 第十二話
強いのは分かった。しかし、やる気なく突っ立っているだけで何もしてこなかったので渾身の右ストレートを顔面にお見舞いした。鉄の壁を殴るような硬い感覚があったが、確かに入ったと思った。
しかし、クロスした両の前腕でがっちりとガードされていたのだ。
私は驚いた。渾身の初手がガードされたことよりも、私の拳を防いだ前腕が先ほど見たときの何倍にも膨らんでいたことにだ。
止まっていては隙になると思い、すかさず右足を軸にして身体を回し、外側から左足の踵で太ももを蹴たぐった。だが、太ももは筋という筋が太く連なり脈打ち、さながら樹齢何百年の大木だ。大概の男なら下腿がぐらつくが、こいつには一切通用しなかったのだ。
崩れたところに拳を浴びせればだいたいはけりが付く、のだが今回はそう簡単にはいかなかったのだ。
今度は左足の踵をそいつの後方に滑らせて、勢いを付けてクロスしたままの左腕の上腕に飛びつき広い背中に乗った。そして、そのまま締め落とそうとした。
だが、首回りは鉄柱のように太く、胸鎖乳突筋までもが金属のバネのようだった。首を絞められるほど腕を回すには、私の腕の長さは少しばかり足りず辛うじて腕を回しているので精一杯だった。
私が太さに悶絶していると首を絞めている腕をはずそうとしているのか、そいつの掌が迫ってきた。迫ってくる掌はまるで巨大な蛇が口を開けているようだった。
手を放し背中を蹴り、一度距離を取った。ここで距離を取ったのが間違いだった。もはや近づけないのだ。
私が動けなくなっているのを察したのか、そいつはゆっくりとこちらに振り向き、タックルをかまされた。そして、デカい体で押さえ付けられて身動きが出来なくなってしまった。
その様子を見ていた群衆は「ヒュー! あのジューリアを押し倒しやがったぜ!」と大騒ぎになった。だが、すぐに上官が何人か駆けつけると群衆は蜘蛛の子を散らすように解散した。
止めに来た上官に連れられて、仲良く偉い立場に呼び出されて怒られた後、基地の隅っこにあるだだっ広い多目的室に二人だけで閉じ込められた。私とそいつは始末書を書くハメになったのだ。