白狼と猟犬 第十一話
やがて女性部隊員では練習相手にならなくなり、男を相手にすることもしばしばあった。最初は負けることもあったが、いつしかそちらもほとんどが相手にならなくなった。
だが、それでもたった一人には勝てなかったんだ。
そいつは格闘技はてんで素人だった。見様見真似で技を使っているのでどうしても相手にかけられない。そうであるにもかかわらず、他の連中はアイツにはどうしても勝てないと口々に噂をしていたので、私は気になっていた。
そんなあるとき、果たし状 (のようなもの)が部屋にぶち込まれた。訓練後に寮の自室に戻ると、窓ガラスが飛び散っていて、その真ん中にレンガが落ちていた。そのレンガに手紙が紐で括り付けられていたのだ。手紙には場所と時間と誰と何をするのかしか書かれていなかった。
私が強者を探しているとか、モノノフを破り続けているとか、どこから湧いて出たか分からないような噂を聞きつけたらしく、そいつから挑戦を受けたのだ。――といっても分かるとおり、そいつはそんなことをしてくるようなヤツじゃない。同期が面白がって勝手に申し込んで来やがったんだ。
噂は全くのデタラメだ。だが、強い奴がいるというなら、受けて立つ。
ある日の昼の自由時間、指定された軍施設のグラウンドの中心へと向かった。
だが、私がそこへ向かう途中にいる奴らが妙にざわついていて、通り過ぎ様に口々に何かを話し始めたのだ。
グラウンドに着いて驚いた。それと同時に、何を騒いでいるのかわかった。私とそいつの勝負の話を聞きつけた野次馬がすでに円形にリングを作っていやがったんだ。その群衆の中でもあっちこっちで不自然な人集りが出来ていたのは、どっちが勝つかかけてやがったんだろう。
そこにいた札束に唾を付けて一枚ずつ丁寧に弾きながら数えていた小柄の男の襟首をつまみ上げて私のオッズはどのくらいだと尋ねた。だが、答える前に、賭けになんざさせてたまるか、と投げ捨てると札束が宙を舞った。
どれくらいのヤツらが賭に興じてるのか、そいつの持っていた札束が紙吹雪のようになると即席のリングに向かって花道が出来た。導かれるように進み中に入ると、今度は真正面の人集りが別れた。そして、そこから大柄の男が数人の男に押し出されるようにリングの中へとやってきたのだ。
噂には聞いていたが、そいつと会ったのはこのときが初めてだった。身体は無駄にでかく、筋肉の量も周りにいる連中よりは多かった。眉間に皺を寄せているそいつは人集りの中へと押し出されるように入ってきた。
そいつは周りにやいのやいの言われて来ていて、全く乗り気ではなかったのが丸わかりだった。レンガまで部屋に投げ込まれていた私にはそれがかなり腹が立った。私がそんなヤツに負けるわけがない。ぶちのめして本気にさせてやる。技もないようなヤツに負けるわけがない。
だが、初対面の先入観で舐めてかかったのが間違いだった。すぐにわかった。筋力が凄まじく強いということに。