白狼と猟犬 第八話
それからは連絡を取っていない。全てが丸く収まっちまえば、家出バカ娘の生き死になんざ知ったこっちゃないのだろう。
だが、実際は連絡を取り合うのが面倒なだけだ。事業がうまくいったとかでちょくちょく首都に顔を出す弟には、会おうと思えばいつでも会える。それ故にますます面倒なのだ。連絡の一つよこさなければ、こっちもよこす道理も無い。
と、後になってしまえば笑い話だが、グラントルアについてからは私はかなり大変だった。
小娘一人で生きて行くには帝政ルーア、グラントルアは厳しいもんだった。帝政だろうが共和制だろうが、厳しいのは変わりゃしないがな。
酒場でウェイターだの、小劇団で舞台女優だのをして日銭を稼いで暮らしていた。
だが、さっきも言ったろ? 私は客に言い寄られることが多かったんだよ。ウェイターなんざ五分も話さないのに、劇団でやってたのは町娘Aとかなのに、どこでめざとく私を見つけたのか不思議でしょうがない。
成金が私を手籠めにしようとバラの花束やらアクセサリーやら毎日送りつけてきて、何回か繰り返すと厨房やら舞台裏やらに押しかけてくるんだ。そして、言うんだよ。「僕のことは、もう知っているよね」ってな。それでヒューヒューと沸き立つ同僚の前でロマンチックに堂々と迫れば、断れないとでも思ったんだろ。
だが、私は全て切り捨てた。田舎娘なんざ押さえ込んでしまえば何とかなるだろうと思ってる浅はかな都市部の男どもが気に入らなくて、同僚の目の前で堂々と断った。
それなのに、ほとんど毎日それが繰り返されていた。必ずフラれると言う噂が流れて、もう来なくなるのかと思いきや、次々現れるんだよ。違うヤツだけでなくて、同じヤツも繰り返しな。本当の君を知っているのは僕だけだ、君を自由に解き放てるのは僕だけだ、君の夢を叶えられるのは僕だけだ、歯が浮くような口説き文句なのか寝言なのかを飽きもせずよく言えたもんだ。繰り返しのヤツらは意地になってたんだろうに。いつか必ず振り向かせると燃え上がらせたとか言うのか。
だが、私は知ったこっちゃない。燃え上がっているのはソイツらだけさ。押しつけられた貢ぎ物は、邪魔で仕方なかった。家もデカくない。どうしたもんかと言うことで、ほとんど全部質屋にぶち込んだ。(移動用のマジックアイテムとか、超便利なモンをくれた輩は一人もいなかった。しみったれが。私が欲しいのは服でも宝石でもない!)
しかし、毎日違うのが来ると、他の女どもに嫉妬されて職を転々とする羽目になったさ。
最終的に首都中でビチクソ女だと噂されて、ウェイターも小劇団もどこも雇って貰えなくなった。それでも金持ちどもに股を開くのはまっぴらごめんだった。