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白狼と猟犬 第四話

 人間は、横に広い横陣を取り、まず魔法による遠距離攻撃を仕掛け前線を押し上げる。

 魔法の威力は魔法を持たず防ぐ術がないエルフにとっては十分な脅威なので、列は一列ないし二列で済む。

 弾幕を張るように撃つが、それでも魔法攻撃を掻い潜り接近してきたエルフの兵士には弓兵による中距離攻撃を仕掛けて止める。


 絶え間のない魔法と弓による攻撃を続けてエルフ側のどこかを崩し、次はその切れ目をめがけて剣やら槍やらを持った連中が突撃してきて、紡錘型に切り開く。


 やがて数カ所の紡錘陣を形成し、そこをある程度拡大してエルフ側の兵士の密度を上げ動きにくくした後、横に広がった横陣の左右を閉じ始めて紡錘の内部と外側から取り囲むようにに動く。

 人間側の陣は薄いが、その段階になると最初期の遠距離攻撃に加わっていた魔法使いたちも横陣に加わっており、さらに治癒魔法での回復も施されるうえに人間は母数が多いので数を減らすことがなく、彼らの魔法がある限り壁と等しい。

 エルフ側はと言えば、囲まれることでさらに密集してしまい、ほとんどの兵が動けなくなる――。


 というのが、人間側の四十年前の戦い方だ。

 有名な戦いではベタル平原での戦いがそうだった。

 人間側は“横列に始まり、連続的にくさびを形成した後に内外からの包囲しての勝利”と讃え、“枝から新芽が出るような戦術であるため通称、穂孕み陣形”と呼んでいるらしい。


 もう少し具体的に言うと、帝政ルーア側の後方に川があったことにより包囲はさらに完全なものにされていた。

 ベタル平原は真っ平らで見通しの効く平原と沼地を開墾した際に出来た細いが流れの速い川だけがある場所なので、よく戦術資料の基礎として使われる。


 ちなみに、貴族のお坊ちゃんたちが銃歩兵科にいたおかげで、私はそれには参加しなかった。

 然したる影響はなかったが、その屈辱的敗北のせいでこちらがかなり追い詰められたのは間違いない。



 だが、今はこちらには当時とは比べものにならないほどの精度と射程距離を持つ銃があり、尚且つ全兵士がそれを持つ。

 ベタル平原での戦いの時点では遠距離攻撃部隊だった弓兵は、現代ではもはや中近距離攻撃部隊となり、時代遅れとまではいかないが戦いでの出番は極めて限定的なものになった。

 主力の魔法射出式銃と、公にはされていないが攻撃特化の魔力雷管式銃の配備が当たり前の時代だ。

 飛行船、飛行機も登場し、遮る物の無い上空を支配しているこちらの戦い方はもはや平面的ではなくなり優勢かもしれない。


 ベタル平原での戦いのように、攻め込まれた挙げ句に方円に追い込まれて、勝ちを見越し狂気に堕ちた人間たちによる白旗を無視した過剰な虐殺、ほとんどの兵士が魔法による焼死、凍死、感電死と矢や剣による過剰な串刺しにされるような事態も防げるはずだ。


 戦場において、混戦状態になれば私たちスナイパーもただの一兵士になるだろう。

 違うところがあるとすれば、他兵士よりも敵を撃つことに抵抗がなく狙いも悪くないぐらいだろう。それ以外は何も変わらない。


 もし、狙撃という役割を与えられたと考えて話をすれば、私たちスナイパーの仕事は攻めてくる敵の頭を一つずつ潰していくことになるだろう。


 例えば、ベタル平原ならば、紡錘陣を誘導し紡錘底辺中心部にいる紡錘の指揮系統をある程度前線に近づけた後、それを狙い撃ち。

 指揮系統を失い混乱し自棄を起こして中央突破をかけようとした者をこちらが逆紡錘をかけ取り囲む。それから……。



 ああ、ダメだ。

 私は軍で戦術はクソが付くほど苦手で、それでウィンストンに何度頭を下げたか。


 それに話せば長くなる。

 色々とややこしいことは尽きない。銃は強いが持ってるだけでは勝てないし、そうだからと言って、ただ撃てばいいってモンでもない。


 セシリアには難しく、話している間に寝てしまいそうだ。私が。


 だから、“狙撃をしようとする者は、狙撃する者にまた狙われている”ということだけを教え込むことにした。

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