白狼と猟犬 第三話
「いいかい? もし、これをスナイパーライフルとして扱うなら、一発撃ったら当たっても当たらなくてもすぐにその場から移動をするんだよ? もちろん周りに気をつけて、防御に意識を集中させて」
「なんで?」
「スナイパーっていうのはね、たった一人を撃ち抜くことで戦いを終わりへ導くことができる、大事な戦力なんだ。
だから、敵にもスナイパーはいる。こちらが撃てばその相手はすぐに私たちの位置を把握してしまう。それはもう丸裸と同じで、撃ってくださいと言っているようなものなんだよ」
セシリアには少し難しいかもしれない。大事なところだけをかいつまんで説明することにした。
狙撃では、誰を狙うか、それがとても大事なのだ。
例えば、共和国において市中警備隊の狙撃部隊が出動したときの話をしてみよう。
立てこもり事件などが起き、誰かが人質に取られたとする。犯人の説得に失敗、交渉も決裂、要求ものめない。
では最終手段としての狙撃になったとしよう。犯人の眉間を撃ち抜いて終わり、とはならないのだ。
犯人が単独犯ならば人質に無残な光景を見せて終わりだが、テロリストなど複数で組織だって動いているとした場合はそう単純ではない。
その組織の規模に限らず、相手側にも狙撃者がいることを考慮しなければいけない。
犯人を狙う私たち、狙われることをわかっている犯人、その犯人を守るための敵側のスナイパー。
その三者の牽制が崩れたとき、全ては決する。そして、解決か迷宮入りかで終わる。
さらに、それらはあくまで共和国内部で、尚且つ市中警備隊での話。
魔法と銃弾が入り乱れる戦地において、そこに足を踏み入れる軍隊ではまた役割も立ち振る舞いも違ってくるのだ。
だが、残念、いや喜ばしいことに、銃が現在の形になってからは大きな戦争が起きていない。それ故に、ここからの話は私の妄想の域を出ない。
大きな戦いがあったときにスナイパーがどうたち振る舞うか、それを説明するには相手がどう攻めてきているか、自分たちがどう攻め込むかを考えなければいけない。
さらに相手は銃の代わりに魔法を使ってくる人間だと仮定しよう。魔法を持つ人間の戦い方と、魔法をほとんど持たないエルフでは戦い方が根底から異なる。
人間は魔法を中心に、エルフは道具を中心にして戦うのだ。
魔法の方が有利のように思えるが、それは違うのだ。そうであるなら、今日のルーア共和国どころか帝政ルーアすらもとより存在しない。
エルフも戦い方を対応できたからこそ、人間による蹂躙を許していないのだ。