白狼と猟犬 第一話
少し前の、他愛もない話だ。
ギンスブルグ家で女中のついでにスナイパーやってるクソババァの話なんかに興味が無いなら、気にもとめないでおくれ。
私たちスナイパーにとって、その手に握る弾丸はすべて魔弾でなければいけない。
魔弾てのは、目をつぶって撃ったとしても必ず的に当てられる悪魔から貰う弾丸だ。
だが、残念なことに悪魔なんていうものはこの世に存在しない。じゃ必ず当たる弾をくれる悪魔がいない私たちは、いったいどこから魔弾を手にすれば良いのか。
簡単だ。私たちスナイパーこそが悪魔であればいいのだ。
スナイパーは銃があれば、どこの国にでもいる。
連盟政府よりも南にあるエルフの国のルーア共和国と、北の果て故に北公と呼ばれる第二スヴェリア公民連邦国。
住む種族も違い、距離も遙かに離れていて国交もない国だったとしても、銃を使って遠くの的を撃つ戦士たちがすることは同じだ。
ただ、違うことがあるとすれば、銃の歴史が浅いかどうかだけだ。
フリントロック式銃、魔法射出式銃、魔力射出式銃、魔力雷管式銃。
共和国の銃には歴史がある。私はその数々の銃の引き金をかれこれ四十年近く握ってきた。だから自分の腕にも自信がある。
その一方で、北公に銃が入ってきたのはごく最近だ。
しかし、北公のポルッカ・ラーヌヤルヴィとか言う軍人は慣れていないはずの魔力雷管式銃をまるで熟練したスナイパーのように使いこなし、精密な射撃を繰り返してきた。
あの女は錬金術で空気の密度を変えて視野補正した上で照準を合わせているから自分の力じゃない?
馬鹿なこというな。それなら私の四十年も自分の力じゃなくて時間の力だとでもいうのかい?
私たちスナイパーは目標に当たれば、それだけでいいんだよ。そのためだけに最大限力を使うべきなんだ。例えそれが自分以外のものであってもな。
現在共和国で流通している銃は魔法射出式銃だ。引き金を握って放たれるのは魔法だけであり、人道的な観点と致命的でない負傷者を出すために放たれる魔法は雷鳴系が中心だ。
――ああ、これから話すことを聞けば、それも建前だってのはバレちまうか。まぁいいさ。
なぜ急に銃の種類の話を始めたのかって?
私が普段から使いこなしているのは魔法射出式銃で、そのときまでは魔力雷管式銃を持つ機会は訓練程度しかなかったんだ。だが、それを実戦で使うことになったのさ。
必ず当てなければいけないというのに、使い慣れていない雷管式で、それも共和国製の銃ですらない北公製の銃を、ぶっつけ本番で使う羽目になったからさ。