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スプートニクの帰路 第五十七話

 クロエは目眩でも起こしたかのように額に手を当てよろめいた。


「あのバッカ男は人の家に勝手に入り込んで……。はぁーぁっ」


「お前はもう黄金探しなんかしないで、シバサキの監督してろ! だから、薬盛ってサント・プラントンに閉じ込めとけってあれほど!」


「そういうわけにもいかないのです。私にだって仕事があるので!」


 肩に載せているセシリアは俺とクロエと言い合いがヒートアップするにつれて、きつくしがみついてくる。どれほど怖かったのだろうか。これ以上怒りの空気を満たしては彼女を苦しめるだけだ。まずは家に帰って落ち着かせなければいけない。

 俺は抱き上げているセシリアを左右に軽く揺すり、背中をさすった。すると、ほんの少しだけ泣き止んだ。


「これ以上、ここでは何も言わない。とりあえず、セシリアがお前のおかげで帰ってこられたことには感謝する。……いや、だが、おい、セシリアになんかしてないだろうな?」


「少なくとも私はしていません。それに大丈夫だと思います。シバサキは私の元から離れてすぐにセシリアを連れてきたので、何もしてはいないと思います」


「あんたの上司のしたことだ。北公にもユリナにも、商会にも協会にも、もれなくこれはすべて言わせて貰うぞ」


「好きになさい! 止めたって言うんでしょ!? 全く、連盟政府はバカばっっっっかりで困ります。なぜ自ら黄金から遠ざかろうとするのか! あれほど、三人を引き離してはいけないと言ったのに! いっそ、ユリナとか言うあの人が殴り殺……」


 おほん。

 地団駄を踏むように足をだんだんとならし、怒り肩で怒鳴っていたクロエが突然黙り、咳払いをした。目をつぶり拳で口元を押さえると冷静になった。そして、人差し指を二、三度上下に擦るように突き立ててきた。


「とにかく、イズミさん! その子はきっちりお返ししましたからね。それから、甘やかしすぎです!」


「なんだよ? お前も両親いなくて私不幸ですーってか? 私の気持ち考えろーってか?」


「ふざけないでください。私の家族は誰一人欠けていません。ですが、その子は甘やかしすぎです! どんな境遇かは知りませんが、孤児で可哀想だからと言って甘やかしすぎるのはいいことではありません。

 あなたの思う『セシリアのため』のままに育てるのと、教育しつけ叱って褒めて育てるのは違いますからね。勘違いしないでください。その子のためにも」


 そういうとクロエは俺たちに背中を向け怒り肩で歩み出し、何かをブツブツと言いながら村の北側へと帰っていった。

 クロエのくせに、諜報部員のくせに、捨て台詞にしてはまっとうなことだったので、あっけにとられてしまい、口を開けて去って行く背中をぼんやり見送ってしまった。

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