スプートニクの帰路 第五十六話
「話は最後まで聞きなさい! あなたもあのバカ男と同レベルですか!? 誘拐なんかするわけないでしょう!?
私があなたに信用などハナからされていないのはよくご存じですが、あなた方には何度も何度も何度も何度も何度も、何ッ度も、言っているからさすがにご理解いただけたのかと思っていましたが、どうやら違うご様子なのでもう一回説明させていただきます、ね!
私は、少なくとも私はあなた方三人を三人で一つと考えていて、決して分けてはいけないと思っているんです! あなたたち親子の為でなくて、そうでなければ黄金にはたどり着かないから! だから、そんな馬鹿げた指示拒否したんです。しかし、その直後にシバサキの姿が見えなくなったと思ったら、五分ほどしてこの子を連れてどこからともなく現れたんです! 分かりましたか!?」
クロエは食い気味な前屈みなり、胸元に手を当てて青筋を立てている。いつものようにクスクス笑ったり、意味ありげに言葉を煙に巻いたり、狂人ぶっている様子からは考えられないほどの狼狽ぶりを見せているのは珍しい。おそらく、シバサキという本当の狂人を前にしては太刀打ちできないのだろう。
その姿に少し圧倒され、俺は構えていた杖が下がってきてしまった。
以前路地裏で聞いたブルンベイクの話も結局嘘ではなかった。クロエはおそらく知らないが、ブルンベイクのパン屋を焼いたのは商会だった。
今回もどうやら嘘ではないようだ。
だが、彼女の話を信じるとなると、そこにはまたシバサキの陰がちらつくのだ。
「ゴチャゴチャなげーのは分かったよ! だったらなぁ、今すぐ回れ右してまずお前んとこの上司何とかしてこい! つか、黄金探しでお前が九十九パーセント動くんじゃないのかよ! こんなこと繰り返されたら黄金探し云々以前に話になんないぞ!? まだ全然始まってもいないのに!」
クロエはうくっと息を飲み込むような音を喉から出すと急に大人しくなった。そして、「本当にすいません。こればかりは謝らなければなりません」とがっくりと肩を落として掌で顔を擦った。
しかし、すぐさま顔を上げ「で・す・が!」と詰め寄ってきた。
「あなたもあなたですよ!? あんな危なっかしいバカ男が、シバサキが一帯を彷徨いているというのに、どうしてセシリアから目を離したんですか!?」
「目を離しただ? そんなことするわけないだろ! この子が狙われるのは俺たちが一番わかってんだぞ。家の中で三人でご飯食べてただけだぞ!? 食器を片付けに離れた隙にいなくなったんだよ!」
クロエは両眉を下げて口をへの字に曲げた。瞳が震えるようになるとこれまでの勢いが萎んでいき、後退るように首を後ろに下げた後、怪訝な表情になった。
「ということは、外に一人でいさせたわけではないのですか?」
「当たり前だ、ボケ。セシリアには知らない土地だぞ。廃屋だって誰もいないからこそ危ない。家が崩れて怪我でもしたらどうすんだよ。そんなとこで一人外で遊ばせるなんざ、危なっかしいこと出来るかよ」