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愛はいなずまのように 第七話

「クッソババァが! 調子に乗るなよ!? こっちが下手に出ればいけしゃあしゃあと! そんなもん、紙に書いて置いとけば良いんだよ! 記録に残す努力ぐらいしろよ。だいたいババァなんかに興味ないんだよ! 若返ったお前だけが目的なんだ! そんな嫌気を抑えて、しかも僕がお前のためを思ってこんなに一生懸命になっているのに、お前だけ何もしないでいいとこ取りなんて許さないぞ。お前には僕の努力に応える義務がある。おら、今すぐ書き始めろ! 終わったらサント・プラントン行くぞ!」


 そういうと壁を思い切り叩いた。そして、今度は拳を壁に押しつけたままニヤつきだしたのだ。


「そうだな。じゃあお前の真実の愛とやらの真相を教えてやるよ。すぐに従わなかったことに後悔させてやるよ」


「ほほう、なら早く言っておくれよ。気になるじゃないか」


「シンヤはお前なんか身体目当てでしかなかったんだよ。あちこちの女に手を出しまくってて残念だけど、お前なんかその一部でもないんだよ」


 シバサキはそう言い切ると鼻の穴を膨らませて顎を上げた。

 私はそのようなことなど知っていた。知らないはずがない。確かに突然姿を消されて立ち直れないのではないかと思うほどの寂しさを覚えたのはそうだった。


 だが、メリザンドがいたから、半分はあいつで、もう半分は私のあの子がいたから私は一人ではなかった。そして、私は心を取り戻し、娘とあいつの息災を知った。これ以上に喜ばしいことはあるだろうか。

 シバサキの言葉にメリザンドの思い出が浮かび上がり、胸が熱くなるような感覚に襲われた。娘は今どうしているだろうか。ヤシマとかいう変な男とユニオンに逃げたのが、そこで元気にやっているは知っている。それでも会いたいと思った。そして、あいつにも。私を一人にしたあいつにさえも。


「どうだ? ショックだろう? 今ならまだ間に合うぞ。五体投地してお願いすれば許してやる」


「知ってたさ」


「つよがんなよ。クソババァ? 泣いてるじゃないか、ハッ」


 私は長い年月で泣くことさえも忘れていたようだ。自分が泣いていることにすら気がつかなくなっていた。乾き固まり、もう壊死して石灰化していたかと思っていた涙腺は再び震え、目頭に痛みが走る。

 私は少女のように鼻をすすり目を擦ってしまった。


「男には弄ばれて、自分の結果も受け容れられなくて、つまんねぇ人生だったな。本当は悲しくて仕方ないくせに。はははは!」


 私が悲しみに暮れていると思っているシバサキは得意げになり、高笑いを始めた。だが、私にはそれが哀れに見えてしまった。こんな私でさえも、まるで幸福なのではないだろうかと思うほどだった。

 シバサキにいつまでも杖を向け、こちらから攻撃の意思を向け続けることが馬鹿馬鹿しくなり杖が下がってきてしまった。

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