愛はいなずまのように 第三話’
「若返ってどうするんだい?」
「ほら、興味を示したね。やっぱり君も身体は若い方が良いのだろう?」
「そりゃあ、若さと時間は同義で、命の次に大事だからな」
「若返って、人生をやり直そう! 黄金のことは後回しでいいんだよ。黄金なんかより時間が大事なのだろう? ブルゼイ史の研究のせいで散々なものになってしまった時間を取り戻し、あるべき幸せを掴もうじゃないか! 大丈夫! 若返って身寄りが無くても、僕が君を支えるから。僕は連盟政府首都に隣接する領地持ちの大貴族なんだ。心配することは何もない」
信じがたい話だ。だが、その真実を語るような語り口と自信はどこから来るのだろうか。かつて異端だと分かりながらもブルゼイ族史を声高に主張していた私よりも自信に満ちあふれている。
「なるほど、若返りか……。悪くない話だね」
「そうか。君もやっぱりそう思うんだね」
シバサキは感慨深そうに頷いた後、顎を高く上げ鼻から息を大きく吸い込んで天を仰いだ。すると外から差し込む光がシバサキの顔を照らした。何やら感慨深そうな顔をしているが、あどけなささえ残るその顔には感慨という言葉は似合わず、ただの大言壮語の寄せ集めで作り上げたものしか見えない。
「昔懐かしい若い頃の君が早く見てみたい。今とは違った美しさで、荒削りで、それでいて脆く愛おしい姿だ」
うっとりと言ったシバサキに私は杖先を向けたまま、左腕を組むようにして壁により掛かった。
「若さがあれば、私はもう一度ブルゼイ族の研究に全身全霊で打ち込むことが出来る。荒削りで無知で無鉄砲で、だがそうでなければ出来ない発想も着眼点もあるはずだ。老いた視野は知識ばかりで偶像を作り上げ、広がるどころか狭くなる一方だ。見えないものを見ようとする若さこそ、私の研究には必要なはずだ。若ささえあれば……」
「若返ったというのに、君はそればかりなのかい」
シバサキは右手の平を天に向けると、仕方なさそうなため息を吐いた。しかし、「いいや、だが、それもまたいい!」と歓喜に沸き立つような芝居がかった声を上げて「若さは可能性だ。その夢中になる姿こそ、僕の深く愛したエルメンガルト・シュテールだ!」と大きく頷くと、連れ出そうとしたのか大股で足を踏み込み近づいてきた。
そして、「決まりだね。では早速若返ろうか!」と私の腕を掴もうと開いた右手を伸ばしてきた。