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愛はいなずまのように 第三話

「私を頭がおかしくなったと放逐した政府に何で付き合わなきゃいけないんだい。今さら掌返しても遅いんだよ」


「相変わらずつれないねぇ。そういうところも愛おしかった。でも、これから君は僕に進んで協力することになるよ。もちろん悪い意味でじゃない。力ずくなんてのはもってのほかだ。協力したくて仕方なくなる」


「ほう、何をくれるんだい?」


「これは君が一番幸せになる方法だ。僕が一生懸命考えたんだぞ。そして、僕にしか出来ない」


 夢を語るように大きく両手を広げて、杖に警戒することなく部屋の中へとさらに入ってきた。動揺を見せないシバサキに思わず後退ってしまった。


「さっさといいな。歳を取ると一日が早く感じる。三分も待ってたら朝焼けを五回拝んじまう」

「その早く感じる時間をもっと、もっと長く感じたくないかい?」


 そう言うとシバサキは歩みを止めた。そして、すぐ横にある棚に飾っていたエイプルトン時代にオフィスアワーの時間を計るために使っていた砂時計を持ち上げた。アカシアの筒に8の字にくびれたガラスケースが収められ、そこには赤い砂が入っている。砂時計の下から埃がなく若い木の色が何十年ぶりかと顔を出した。


「毎日の全てが新鮮で何をしても退屈しない」


 高く持ち上げて差し込んでいた光に当てて下から覗き込み目を細めた。反射した光は部屋を漂う埃とシバサキの顔を照らしている。親指と中指で摘まみ、人差し指で軽く弾くようにして揺らした後、くるりとひっくり返し再び棚に置いた。


「目に映るものは全ては輝きに満ち、触れるものは針で刺すかのように刺激的で、音は鼓膜を揺らし鼓動をかき立て、味わうものはみな甘く、バラの如く香ばしいその全てを、我が物にしようと生き急ぐ。それでも手に入れることが出来ず、萌えいずる若い緑が芽吹きを抑えきれないようにもがく日々。そんな日々を取り戻したいと思わないかい?」


 目に見えないような小さな罅が入っていたのか、砂は僅かな水分を集めてだまになり、さらさらとは落ちていかない。だが、何十年ぶりかにかけられた力にだまは弾けるように崩れ始めていた。


「まさか……」

「そう。そのまさか。若返りたいと思わないかい?」


 シバサキは自信に満ちた顔を傾けて、そのまま僅かに顎を引いて私を覗き込んできた。

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