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愛はいなずまのように 第二話

「酷いじゃないか。何十年ぶりに思い人に会えたから照れているのかい?」

「あんたも黄金だろ? ユリナから全部聞いたよ」


 隙間から睨みつけながら私がそう言うと、シバサキは嘘のあるにこやかな表情を一変させた。厄介なものをあしらうように首を回し、遠くを見ながら舌打ちをした。


「チッ……、あのメスガキ、余計なこと言いやがって。クソガキのうちに社会ってものをわからせておくべきだったな」


 これまでの態度からは考えられないほどの変貌ぶりを見せたが、それよりもその言葉の滑稽さによって腹の底からくすぐられるような感覚に襲われた。笑える状況ではないにもかかわらず、それを抑えることができなくなった私は「はっはっは!」と思い切り噴き出してしまった。


「わからせる!? こいつは滑稽だね。アンタじゃ逆にわからされて、種なしにされちまうよ!」


 さらにその後に堰を切ったように豪快な笑い方をする私を見たシバサキは、表情を変えなかったが僅かに額に筋を浮かべた。


「そ、そういう上品でないところはユリナにそっくりだね。でも、僕はそれくらいじゃあ怒らないよ」


 余裕を見せようとしてそうは言うものの、早口の声は裏返り、指先は常に触れているものを落ち着きなくとんとんと叩くように動いていて、とても余裕があるようには見えない。

 私はそれにも笑いを抑えることができず、いつの間にかドアを押さえ込む力が抜けてしまっていた。


「ヒー、で、何の用だい? 自分だけに協力しろってか?」

「よくわかっているね。さすが、賢い人だ。聞くまでもなく返事はわかっているけどさ」


 シバサキは驚いたように目を開くと、今度はすぐさま表情を明るくした。そして、開けていたドアの隙間に上半身を滑り込ませて乗り出し、家の中へぬるりと入り込んできたのだ。


 私は気持ち悪さにすかさずドア脇にストッパーとして置いてあった杖をドアの開閉に邪魔になる物をどけるかのようなふりをして持ち上げた。杖に触れたとき、吸い付き痺れるような感覚が右手に走った。出来る限り表情に警戒心を浮かべないように努めたが、表情筋と足の筋のこわばりを感じる。こんな程度の奴とはいえ、やはり私も怖いのだ。


「アンタは確か、連盟政府の回し者だったね」


 無意識下ではすでに極度の警戒をしていたのか、杖を持つ手は魔力を自分が意識する以上に帯び始めた。それを悟られないように杖の溝に溜まった汚れを爪でほじくり取るかのようなふりをしながら魔方陣を練り上げ、視線を合わさずシバサキにそう尋ねた。


「それがどうしたと言うんだい? 僕は連盟政府ではかなり偉いんだぞ」


「じゃ尚更だね。私が心血を注いだブルゼイ族の歴史研究を世に広めようとした結果、おたくら政府が何をしたか忘れたわけじゃあるまいな?」


「んん、僕はそれについては知らないなぁ。何か酷いことでもあったようだね。それは大変だったね。まぁ、でも大したことない昔の話だろ? もっと未来志向じゃないと。過去にはぬくもりもあるけど、基本的には全て進歩の足枷だよ」


「歴史学者の前でよくそれを言えたな。今すぐ消えな」


 魔法を撃つ準備が整ったので、シバサキに杖先を向け先端に魔方陣を形成した。即席で大した魔法ではないが、一メートルも離れていない位置から放てば確実にドアの外まで弾き飛ばせる。さらに近づければ効果は倍だ。ドアごとになるのが厄介だが、後で洟垂れイズミに修理させればいい。


 ただ歴史を研究していただけではないエイプルトンの歴史科教室長の実力を思い知らせてやる。


 杖を二、三度軽く振り、邪魔なものを払うような仕草をしてみせた。

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