エレミットとグーリヒア 第十八話
「なぁ、兄ちゃんたち、実はオレたちゃ殺し合いに来たんじゃないんだよ」
「噂で聞いたが、アタシらの故郷を探してるってなァ? 何のようだ?」
「貴様らブルゼイ族には関係ない」
二人からはほとんど無視されているラーヌヤルヴィは、問いかけに答えようとした私を差し置いてそう言うと、再び左肩にバットを当て左肘を骨盤に乗せるようにして照準を合わせ始めた。
タイミングも何も考えずに引き金を握るつもりか。全く、銃を使いたいだけ馬鹿娘は黙っていなさい。
何が何でも撃たせるわけにはいかず、「下佐、まぁまぁそう言わずに」とはっはっはと楽しげに声を上げ笑いながらラーヌヤルヴィの砲身をグイと押さえ込み、発射口を二人のいない右下の方へ向けた。
砲身を力尽くで持ち上げようと抵抗されているが、上げさせるわけにはない。こちらも手に食い込む砲身を握り渾身の力を込めて押さえ付けた。さすがの彼女もこれでは撃てまい。引き金に指をかけてはいないが、まだ撃つ意思はあるようだ。
力みふるふると震える砲身を抑えながら、二人に微笑みかけた。
「私たちは黄金を探しているのですよ。あなたたちの故郷、ビラ・ホラは黄金郷らしいですね」
「ああ、そうだな。だが、そりゃアタシらのもんだ」
「やはり、あなた方も黄金郷捜しでしたか。それでセシリアを誘拐したのですね」
「兄ちゃんたちと一緒くたにすんな。あのガキも含めたオレたちは地元に帰るだけよ。そして、先祖の残した物をありがたく使わせて貰うだけだ。そうすりゃあ、先祖も浮かばれるってモンよ」
ラーヌヤルヴィはまだ銃を押さえつける私の手を退けようと銃を動かしている。
扱いを間違えるな。誤射したらどうするつもりだ。誤射で撃つのは地面ではなく、閣下の心臓だと思え。
私は砲身をさらに握り、渾身の力を込めて彼女の足の甲の上へと銃口を向けた。今ここで私がいきなり力を抜いて抑制を解いたら、自らの抵抗力で起きた勢いでうっかり彼女は引き金を握ってしまうかもしれない。そうなれば吹き飛ぶのは彼女自身の足だ。
しかし、にも拘わらず、まだ砲身を持ち上げようと力み続けているのだ。ふーっふーっという荒い鼻息を上げているのが聞こえてくる。
「あなたたちが何に黄金を使うかは、この際お尋ねしません。ですが、私たちとあなたは同じ方向を向いています。実は、他にも何組かそういう方々がいらっしゃって、その様々な人たちと協力して黄金を探すことになったのですよ」
「そうか、じゃまとめてお家に帰んな」
「いえいえ、待ってください。みんなで一緒にと言い出したのは、なんとあなた方がこの間攫ったセシリアの父親なのですよ。血のつながった父親ではないのですが、大事に育てていますよ。イズミさんという方で、やはり思った通りに生きていましたよ」
イズミさんの生存報告に二人は驚いたように肩を上げると「あいつ、生きてたのか」と何故か安心したような表情でつぶやいた。これは意外だが、二人はイズミさんを殺してしまう意思はなかったようだ。ただセシリアを連れ出す理由が乱暴なだけだったのだろう。私自身も彼らに傷つけられ、良い気分ではない。彼に代わって殴り飛ばしてもいいくらいだ。
だが、二人はブルゼイ族である。閣下が私に託された任務を果たす上で希望となるセシリア同様、今後接点を持つことを避けては通れない。
これは良い機会なのではないだろうか。傷つけられたというただの憎しみなど感情に左右されて好機を失うのはあまりにも馬鹿げている。
それはこの二人にも同じこと。ここでこちら――特に私が憎しみにまみれた攻撃をしてしまえば、彼らの心の中で僅かにでも芽生えていた罪悪感をより明確に大きくしてしまい心を塞いで頑なになってしまう。それはあまりにももったいないではないか。
ならば私が彼らに言えることは一つ。それは、消えろ、でも、帰れ、でもない。