エレミットとグーリヒア 第十七話
「貴様ら、私が銃を構えていることを忘れるな! これがどういう武器か知りもしないクセに私を雑魚扱いするな!」
ラーヌヤルヴィは銃を見せつけるようにゆすり、青筋を立てて怒鳴り声を上げた。ベルカは首を回して顔の前で虫を払うかのように右手を払った。
「あぁあぁ、っせーな。嬢ちゃん、あんたの銃はこえぇこえぇだよ。あんたが左手でその出っ張りを引きゃあ、その筒ん中に突っ込んである鉄の弾が飛んでくるんだろ?」
さて、この二人はあれから銃についてどこで知ったのか。
あれからそれほど日も経っていないというのに、銃が音による威嚇兵器ではないことどころか、さらにその先の戦闘時における特性までも理解したのだろう。ラーヌヤルヴィが銃を構えていると、近距離攻撃をするために否が応でも弾の軌道上に入らなければいけない私は安易に動けない。彼らの恐れる槍は不能なのだ。
そして、この二人は引き金を握ることで弾が撃ち出されることをすでに理解している。その動きが分からずに撃たれれば回避は不可能だが、ラーヌヤルヴィの引き金を握る直前の僅かな全身の動き、表情、雰囲気などありとあらゆる事前行動を察知するなど容易いのだろう。
それをわかっているからこそ、この二人は私たちの様子を覗っていたのだ。
その一方で、ラーヌヤルヴィは学習をしない。さっきあれほど先入観にのみ込まれるなと言ったというのに、ラーヌヤルヴィはベルカの言葉を聞いた途端、目を丸くして動揺丸出しではないか。意図しない当たらぬ凶弾が手札にあるのは困ったものだ。いや、この短時間で理解するのは不可能か。
二人組から徴発を受け続けて、それに煽られて撃ち込まれても困る。冷静さを欠いたラーヌヤルヴィは撃つ直前に強烈な殺気を放ってしまう。それがわからぬ彼らではないだろう。それどころか、引き金を握るタイミングまで悟られてしまい、確実に避けられてしまう。
そして、どれほど彼女の排莢からの装填が早かろうとも、たった十歩ほどの位置にいる手練れの彼らには、隙を突くには充分な時間だ。下手な鉄砲も数打ちゃ当たる、とは言うが数を撃つ間も与えられないだろう。
状況を好転させるのは不可能。ならば、まずは圧倒的にマイナスなこの状況を解消させるために彼らの注目を私の方へ向けなければならない。
「これは素晴らしいですね! 銃についてだいぶ詳しくなられたようで。私ですら最初は慣れなかったというのに、さすがです」
「そりゃあな、ノルデンヴィズであんな風にぶっ放されちゃ調べるだろうに」
ベルカは私の方へ向き直ると、頭を掻きながらため息をした。そして、驚いたことに両手を開いて敵意がないことを示すかのようにこちらへ見せてきたのだ。隣ではストレルカも腕を硬く組み、自慢の大鎌に手をかける様子を見せていない。
私たちは馬鹿にされているのだろうか。二人は挑発に容易く乗る馬鹿娘を嫌でも煽り爆発させて、勝機を掴もうとしているのだろうか。