エレミットとグーリヒア 第十六話
「変えたのは長くした砲身と錬金術で強化した成形炸薬効果に耐えうる強度だけだ。ある程度の汎用性に慣れておかないと、いざというときに対応できないからな。欠点があるとすれば、コバルトやらマンガンやらの合金を強ひずみ加工をしてさらに長いので少々重い」
自信に溢れた様に言い切ると、添えた左手の人差し指は引き金を巻き込むように内側に向かって折れ始めた。だが、このままラーヌヤルヴィに銃を撃たせてはいけない。一度引き金を握れば、二人組に勝利を渡したも同然。それをわかっているように二人組は何もせず、それどころか早く撃てよと挑発するようににやつき始めている。
私は感銘を受けた様にわざとらしく、そして大げさに手を叩いた。そして、「説明ご苦労。関心、関心。ですが、今は接近戦ですよ。単発式ボルトアクションの弾込めを、左利きのあなたがするための時間を稼いで差し上げましょうか? ああ、そうだ。ストックも黒檀なら相当に硬いはず。一発撃ってガチャガチャやっているよりも、振り回して打撃を繰り出した方が速いでしょうね」と笑いかけた。
すると舌打ちをしたラーヌヤルヴィの指は引き金から一度離れた。だが、またすぐに引き金に向かって折れ曲がっていった。
「黙れ。わざわざ自分の魔力が弱いことを白状してまでこれを構えている。私の自信を見くびるなよ。錬金術で強化した弾は一発で全てを貫く。誤射に気をつけるんだな、上官殿」
そして、いよいよ撃たんと狙い澄ますかのように眼を細め始めたのだ。
馬鹿娘が。嫌みの一つも理解できないのか。近距離でその銃を撃たれても困りものだ。
ラーヌヤルヴィの銃は遠距離射撃用にさらに改良されている。どう見てもスナイパーライフルであり、おそらく現時点での共和国の最新鋭のライフルよりも射程範囲が広い。
魔法のない共和国では狙撃にはスコープが必須。だが、その性能以上に飛ぶ弾は暗闇に向かって撃つのと同じで意味が無いどころか危険なだけだ。
一方、彼女は魔法で視野補正まで行うので、私たちにとっての暗闇を切り裂くようなその射程を遺憾なく発揮できる。
だが、今この状況が遠距離での戦闘といえるだろうか。
敵は遠距離用のライフルの目の前にいる。
虫眼鏡に止まる蠅の足を正しく数えられるか? 双眼鏡で地べたの蟻を見るのか? 望遠鏡で家の屋根に止まる蝉を覗くのか?