エレミットとグーリヒア 第十四話
「じ、上佐、今さらですが、拠点の見張りは必要なかったのですか?」
「見張り? そんなものいりませんよ。今私たちは仲良く一緒に黄金を探しているのですから。それに今私たちの拠点の廃宿に入ったところで、有益な情報は得られませんよ」
当たり前のことを答えるとユカライネンは口をへの字に曲げた。彼女は出先で腰を落ち着けられる場所である拠点を無警戒に留守にしていることが気になるのだろう。あの廃宿は確かに拠点だが、何も無い。ラーヌヤルヴィの銃は予想外だったが、武器弾薬も必要最小限しか置いていない。
そして、まだ使い始めて日が浅い。窓枠やドア枠といった人の出入りがあれば自然と動きが出る場所に埃はまだびっしりと積もっていて、動かされた僅かな痕も吹きすさぶ砂埃によってすぐに飲み込まれる。外観からでは並ぶ他の廃墟と区別が付くかも怪しい。
不安な様子のユカライネンを他所に、私はむしろ落ち着くような気分になっていた。
「ここは良い村ですね。クライナ・シーニャトチカといいましたか。ひとけが少ないというのはなんとも落ち着きます。私にとって人混みがないというのは仕事になりませんがね」
「上佐、この地域一帯は今後重要なところになると思いますよ。友学連と北公は現在陸路で繋がっていません。連盟政府の盲腸領であるピシュチャナビク領から出た虫垂のような形で砂漠まで伸びていて、上下を我々北公と友学連に挟まれています」
私の右後ろを歩くウトリオはキョロキョロと周囲を警戒している。残念なことに、心配性のユカライネンと軍人気質のウトリオにはこのお散歩が気分転換にはならなさそうだ。二人の上官であるラーヌヤルヴィがぎらついたまま付いてくるのもあるのだろう。二人の気が休まらない。
「なるほど、虫垂ですか」と表情の硬いウトリオ上尉の方へ首だけ向けて微笑みかけた。
「いらないから切ってしまえと共和国にいる医者が……、ああ、こっちでは要するに僧侶ですね。彼らの間では言われているのはご存じですか。いらないとならばいっそ私たちにくれてしまえば良いというのに。ははは」
「そうもいかないですよ。連盟政府の領土を取り巻く山も途切れて砂漠に直結するのはこの辺りだけですから。砂漠は全容がわかっていません。何かあれば動けるようにしておきたいのでしょう」
ウトリオが言い終わる前に、私は歩みを止めて右手を肩の上にあげ止まるように指示を出した。すると、遅れるようにして後ろを歩いていた三人も歩みを止めた。そのまま右手を背中に回し、ブルゼイ・ストリカザに手をかけた。
前方から良からぬ気配が突如現れたのだ。
「連盟政府はここをただの辺境もどきだと思って重視しなかったようですね。虫垂は免疫を担っているらしいと言われています。免疫とは守備する兵隊。そして、それが置かれるのは排するべき者が淀む場所だから。切り取りもせず意地汚くとどめておきながら、兵を置くことを怠るとどうなるか」
敵意のある気配に警戒し、左足を擦らせるように前に出して腰を落とした。
砂埃が舞うと前方の左右の路地から身に覚えのある二人組が出てきたのだ。男女の二人組だ。
「連盟政府にとって良くない者が外から入り込んでいるではありませんか」
それを聞いた前方を塞ぐように立ちはだかる男女の二人組は呆れたような表情になった。
「害虫とはひでぇ言い草だな」
「兄ちゃん、元気だったかい?」