エレミットとグーリヒア 第十二話’
槍は壁に立てかけてある。ラーヌヤルヴィから視線を外さず、槍の置いてある場所とその周囲を確認した。
ラーヌヤルヴィが魔方陣を展開してもすぐに効果は現れない。錬金術での攻撃手段は、火の玉や雷、氷塊などといった直接的な攻撃ではなく直接的ではない。何かしら物に作用しそれを飛ばすか、もしくは自分自身を強化するかなので一段階モーションが増える。予想される彼女の動きは、杖を構え、魔方陣を形成し、魔法を何かに作用させ攻撃に転じる。私が槍を取りに行くには充分過ぎるほどの時間がある。
壁までは大きく三歩。足下を滑りやすくさせている砂さえなければ二歩で確実に届いた。掴むと同時に後ろの柱を蹴って飛びかかり、まず利き手の左手を折り杖を封じる。
落ちた杖をロビーの反対側にいるウトリオ上尉とユカライネン下尉のほうへと蹴り、ラーヌヤルヴィの右足をかけて転ばせて槍の石打で顎を砕く。
ウトリオ上尉とユカライネン下尉は私を押さえ込みに来る前に、目の前に飛んできたラーヌヤルヴィの杖を受け取る、もしくは回避することで動作が増える。
その間にラーヌヤルヴィを二人からさらに遠い壁際に蹴り飛ばす。そのまま軸足を回し砂を蹴り上げてウトリオ上尉とユカライネン下尉の眼を潰し、魔法の発動が遅れる隙に両足を折る。残すは右腕のみ。ウトリオ上尉、ユカライネン下尉の二人の杖を弾き落とすために飛びかかる勢いを込めた足でラーヌヤルヴィの右腕を踏み潰す。
だが、殺しはしない。
舌骨は折らないようにする。呼吸が止まられては困るのだ。蹴り上げるときも細心の注意を払う。さしあたり肩甲骨を蹴るつもりだ。腎臓などの急所は外す。殺さないことへの細心の注意は払わなければいけない。
足を曲がらぬ方向へ向けて、両腕を上腕から砕き、下顎を砕き、その身体に愚かな弱者であることを刻みつけ、そして、後方へ送り届けて差し上げよう。
立てぬ足で法廷に立て。書けぬ文字で私に裏切られたと訴えろ。しゃべれぬ口で無罪を主張しろ。何も出来ずに営倉で傷を癒やせ。最終的に除隊処分が下るだろう。
そして、怪我が癒えたら実家に帰るといい。
傷だらけの娘を哀れんだ両親は“ポルッカ、あなたに良いお話があるの”と見合いを勧めるだろう。
私は大いなる目的を果たし、君は閣下の作りたもうた美しき新世界の片隅で傷だらけの身体にも深い愛情を注いでくれる男と共にのんびりと花を愛でて平和に過ごす。
素晴らしく良い結果ではないか。
ははは。はははははは。