エレミットとグーリヒア 第十話
私が自らの仕事を極めて偏って見ていたことに気がついたのは、その二つがレジスタンスの手に渡った後だった。
ただの寄せ集め。革命前夜の長く浅い夢。レジスタンスはまだレジスタンス。そうだと思っていた。
武器を渡した後、閣下と共にレジスタンスの上層部の集まる極秘の会議に参加する機会を与えられた。会議の場所は北国の冷たい隙間風の入り込む貧相なテントで、まとまりのない話し合いがなされるのだろうと私は肩を軽くして閣下の後に続いてテントに入った。だが、そこに並ぶ面々は錚々たる者だったのだ。
クイーバウス領のライナルト・グライトレヒテ・フォン・ヘルツシュプリング将軍、シュテッヒャー領のボニファティウス・エーミール・フォン・ハルツェンブッシュ将軍、フェストランド領のアルフヒルド・マデリエネ・フォン・オーケルド将軍、さらに軍人だけにとどまらず、バーンハード・アスプルンド博士を始めとした魔術工学技術者、ほぼ政治犯のような政治家、要注意の危険思想家など北部辺境の自治領の内部でも名のある者たちが顔を連ねていたのだ。
レジスタンスは大隊規模などではなく、北部にある自治領の多くが参加していたことにそのときになって気がついたのだ。それはもはやただのレジスタンス規模ではなかった。
やがて銃は、実戦に投入できるまでに必要な魔術教育を必要せずに、初等・中等レベルの魔術教育しか受けていない魔法使いや、ひいては魔法が一切使えない者でさえも容易に扱えて魔法使いと同等の力を得られるという可能性の高さ故に目を付けられて、アスプルンド博士により瞬く間に改良・量産された。
偶然か否か、突如として起きたユニオンの独立により触発され勢いづいた閣下はやがて離反を表明し、戦線は拡大され北部辺境独立戦争へと発展していった。
連盟政府は“自警団のヴィヒトリ・モットラは離反軍に捕まり処刑された”と公表した。“エルフより悪しきカルルの魔の手は、勇猛果敢にもたった一人抵抗を示したモットラを熊の如く獰猛に殺した。彼の英雄的反抗は長く語り継がれる。彼こそ連盟政府の市民のあるべき形だ”と声高に宣伝し士気を挙げると同時に、自警団という民間人を残虐に殺したと言うことで離反軍の残虐性を示そうとしたのだろう。
連盟政府での私、ヴィヒトリ・モットラは既に死んだことになっている。都合良い嘘を紛うことなき真にすげ替える為に、かのテレーズのように殺されると思ったが、どれほど無警戒でも不思議なことに私は捕まらない。殺し屋さえも来ない。
ありがたいことにまだクビではないようだ。いざというときの手札にしようとしているのだろう。つまり、私はまだ聖なる虹の橋の“裏切り者”なのだ。
それから、私が自らがスヴェルフだと閣下に報告をしたのは、イズミさんがノルデンヴィズ南部戦線の基地に来た後だ。だが、おそらく閣下は私がただの浮浪者ではないことにレジスタンスに入ったとき、いや、初めて会った森の中で会ったそのときには既に気がついていたのだろう。
トウヒの森に包まれた闇夜の暗がりで突然ランタンに照らされ、その眩しさに瞳孔を縮ませた私を閣下は何者だと思っただろうか。ただの浮浪者ではないが、よもやスヴェンニーの血が流れるエルフだとは思わなかったはずだ。
しかし、閣下は報告を受けても、そうか、としか言わなかったのだ。