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エレミットとグーリヒア 第七話

 廃宿の蝶番の緩んだ観音開きのドアが砂を巻き込み、臼を引くようなざらついた音と共に締まると、外の風の音は細く悲鳴のようになっていった。そして、空気の出入りが戸口ではなく隙間に戻り、笛のような微かな音に戻った。


 それは敵対組織であり競合勢力の手勢による突然の訪問により張り詰めていた空気が抜けていくような音でもあった。


 ドアが締まりきりしばらくすると、クロエの気配が完全になくなった。

 彼女とは同期の間柄だ。長年同じ気配を感じていると姿が見えなくてもどこに存在しているかは大凡わかるが、ドアの向こう数メートルにはもういない。どうやら本当に帰ったようだ。


「蝶番を直して隙間風を止めないといけませんね。開閉の度に音が鳴っては穏やかではありません」


 三人も気配の消失を察したのか、ドアへと向いていた顔を私の方へ向けて寄ってきた。


「ムーバリ上佐、あ、あの、スヴェルフって一体どういうことですか?」


 ユカライネンが真っ先に尋ねてきた。胸の前に小さな拳を握り、やや前屈みになっている。


「ユカライネン下尉はそれがどうしても気になりますか?」


 その問いかけにどうしても答えなければいけないのかと含みを持たせて尋ね返すと、彼女は目を大きく開けて驚いたようになった後に申し訳なさそうに縮こまり猫背になった。


「いえっ、その……、はい、気にはなります。ですが、カルル総統は連盟内部での意識改革によってさえも為し得なかったスヴェンニー差別の完全撤廃するためにも第二スヴェリア公民連邦国を立ち上げたので、種族民族の話題は良くないかと思って……。やはりエルフなのですか?」


「気になるのは仕方が無いですよ。エルフと言えばまだ醜悪な存在。ですが、最近はありがたいことに理解が進んでいるようですからね。尋ねてしまったことを気に病まないでください」


 私はユカライネンに目を細めてそう言った。彼女はため息をすると肩を小さく落とした。私は気にもしない。少なくとも私は。


「あの女がたった今言ったとおり、実は私の血の半分はエルフなのですよ。両親の名前も顔も知らないのですが、父親がエルフだったというのは何故か微かに覚えているのです」


「エルフどものスパイだと聞いてはいたが、まさかその身体もエルフとのハーフだとはな。半人など穢らわしい」


 ラーヌヤルヴィはずいと前に出て机の前に立ちはだかると組んでいた腕をほどき、机に左手を乗せた。そこに体重をかけるようになり、前屈みになると顎を上げて眉間に皺を寄せて見下ろしてきた。


「下佐は不服なご様子ですね。私たちスヴェンニーが受けてきた差別というものを、形を変えて君が私に向けるのですか?」


「そういうわけではないのですが、エルフは理解が進んだとはいえ今なお人間と争っている種族。共和国と我が第二スヴェリア公民連邦国との関係性がまだ不透明なので、ヒュランデル上佐が上官であっても、閣下に報告させていただきます」


 私とラーヌヤルヴィの空気がまた悪くなり始めたことを察したのか、ウトリオが割り込むように机の横に来た。

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