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黄金蠱毒 第三十二話

 北公の独立、さらには共和国との和平交渉が始まるよりも以前からエイン対ルード比が下がり続けていたのはご存じですね。

 現在、北公の金融中心として機能している旧フェストランド領ヤプスールのヴィトー金融協会北部支部およびに離反加盟自治領による長年の計画により、ルード通貨の価値は意図的に引き下げられ続けていました。

 そこに起きた北公の離反は、私たち協会への連盟政府のデフォルトの決定打になるかと思われましたが、戦争と言う需要が想定以上にあったため今のところ下げ止まりの兆しを見せている様子です。


 しかし、南西部のマルタン戦線はご存じの通り完全に停滞、北のノルデンヴィズ南部戦線において押されていますが、北公の勢いにも息切れが見え始め慢性化する兆しが日増しに強くなり非常に芳しくありません。

 長期化すると単なる疲弊しか生み出さないことを回避するために、撤退や講和についてを采領弁務官で構成されている有事分科会で数回話し合われました。しかし、上層部である十三采領弁務官理事会は離反により数を減らしていて、シバサキを始めとしたこれまでのノウハウを一切踏襲しようとしない新規の理事員が参加したことにより、有事分科会の話など取り入れられることがなくほとんど対応がなされていないのが現状です。


 私たちヴィトー金融協会としては、これ以上にルードの価値が下がる様なことは控えたいのです。今後、共和国エケル通貨との価値のすりあわせを行う上で、価値のない通貨と認識されるわけには行かないのです。

(私たちが共和国との交渉の際にしようとしたことを考えれば、そのようなことを言える立場ではないのですが……)


 戦争内乱分離といった相次ぐ異常事態で混乱した市場に、大量の黄金が流れ込むのは防がねばなりません。

 ですので、手をこまねいている連盟政府よりも先に私たちが黄金を発見して、政府側には研究用に適当な量渡し、それ以外は現地にて封印するかもしくは私たち協会・商会で秘密裡に押さえこみ、現在市場に流通している黄金の価値を暴落させないようにコントロールしなければいけません。


「イズミ、仕事のような話で大変心苦しく、おまけに私たち商会協会の目的は自分たち本位なものですが、結果として亡きククーシュカやセシリアの故郷を守ることができるのです」


 カミュは協会の置かれている状況を語ると改まった。しかし、全勢力の前で情報共有をすると俺はすでに宣言した。融通を利かせろと言うのは今さらすることは出来ない。何よりも、融通の利かず頑固なところがあるカミュの発言とは思えない。


「それで連盟政府ではなく協会商会に優先的に情報を回せと? 残念だけどカミュのお願いでもそれはしないな。それにヴィトーは今ユニオンと懇意にしているじゃないか。ルードの価値がどれほど下がろうとも、ユニオンの新通貨に期待しているんじゃないのか? ルード暴落で最終的に困るのは商会だけのはず。その言葉は本当に君が思う言葉なのか?」


 そういうと二人は言葉を失うように黙った。やはりか。


 まず最初に俺たちにモギレフスキー夫妻の生存を伝えて、彼女たちの側に傾けようとしていたのはわかる。実際アニエスは安堵のせいで足腰は抜けたし、俺は自分の中にあった違和感を解消できて安心した。

 そして、俺たちは放浪していたので世間の情報をあまり知らないとも思っていたのだろう。あわよくば無知につけ込んでドサクサで誤魔化せればというのが見え隠れしている。だが、彼女たちは信じられる仲間でもあるのだ。彼女たちの言うことも尤もであり、それ自体は悪いことだとは思わない。


「……やはりご存じでしたか。何も知らないと思い、そこへつけ込むような形になってしまったのは非常に申し訳ないです」


 彼女たちはそれだけでは傾かないと言うことも察していたようだ。カミュは鼻から大きく吸い込むと、目をつぶり仕方なさそうに息を吐き出した。


「仰るとおり、確かに今ヴィトーは非常にユニオン寄りです。ですが、協会本部はサント・プラントンにあります。そして、移動魔法の利用も商会の管理下に置かれているので、協力しなかった場合に移動手段を封じられてしまうのです。そうなるとユニオンの件だけでなく、全土での取引に影響が出てしまいます」

「移動魔法のマジックアイテムは商会からの貸与なんだろ? そのへんはレアとどうなの? 商会は協会とユニオンとの取引について何も言わないのか?」


 同じく黙り込んでいたレアの方を見て尋ねた。すると、彼女も仕方なさそうに二、三度頷いて話し始めた。


「商売敵と手を取ったからといって全て排除という白か黒かしかない子ども同士の喧嘩ではないのです。あなたの場合は個人でしたので封殺する手はずでしたが、協会ほど大規模になるとそうもいかないのです。私からも説明いたしましょう」

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