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黄金蠱毒 第二十七話

「なんだ? ブルンベイクがどうかしたのか?」


 あえて焼き討ちがあったという単語は使わずにレアに尋ねると、彼女はその白々しい返答に少しむっと眉を寄せた。


「ブルンベイクが焼き討ちされたのはご存じですね」

「ああ、俺たちはブルンベイクに行って焼け跡を見た。それもまだ燻ってるときにな。その後、レアに閉じ込められたテッセラクトの中で、顔の分からない犯人がパン屋に火を放って、それから焼け落ちていくパン屋と街並みの何から何まで全部見た」


 レアは両眉を上げて小さな口を開けると言葉に詰まったが、すぐに気を取り直した。


「ならご存じかと思いますが、幸いなことに死傷者が出なかったそうですね。私が知る限りでは、行方不明者さえもいないそうですね」

「いや、アニエスの両親が、モギレフスキー夫妻が行方不明だ」


 レアは俺の言葉に視線を僅かに動かしたが、無視するように話を続けた。


「らしい、そうだ、というのはやめましょう。死傷者が出ていないというのは、村民の避難場所であり、現在ノイエ・ブルンベイクとして再建されている場所を火災直後に訪れた際に確認しています。さすが、カルル閣下を村ぐるみで匿うだけはありますね。見上げた団結力です」

「いや、だから、アニエスの両親が行方不……」


 レアの含みを持たせるようでいまいちかみ合わない話しぶりと態度に妙な違和感を覚えた俺は言葉が途切れてしまった。


「何度も言いますが、私個人が知る限りで死者・行方不明者は()()()いません」


 そして、彼女は念を押すように繰り返した。


 念を押されるよりも前に違和感が記憶を揺すった。顎を擦りながら足下を見て、砂の地面を探るように視線を動かしながら、様々なことを思い返した。


 クロエは、先日聖なる虹の橋(イリスとビフレスト)によるパン屋への放火は否定し、そして村全体を焼いたのは連盟政府軍の斥候部隊だと言った。何者かによってパン屋に火が放たれた後、斥候部隊が村そのものを焼き払おうと村の周りに火を放った。クロエの話を信じたとすれば、そういうことになる。


 だが、よく考えれば先にパン屋だけが出火したというのは不自然だ。最終的にすべて燃やして灰燼に帰してしまうなら、何故わざわざそこだけを先に狙ったのか。


 確かに、アルフレッド、ダリダは引退してこそいるが二人とも脅威であることは間違いなく、そして、カルル閣下を保護隠匿した主犯格だ。敵対状態になった脅威を予め抑えておくのは的確かもしれない。二人に敵うような存在はほぼいないと言って差し支えない。それ故に、自宅で油断しているタイミングを狙い失火で消してしまおうというのはあり得る。(火事ぐらいで死ぬわけが無いだろうと言われればそれまでだが)。

 それにパン屋は村の中心に近く、騒ぎを起こしてそこに村人を集めれば一網打尽にすることができる。


 しかし、斥候部隊の別働隊がパン屋に侵入し放火したというのは考えられない。


 俺たちがテッセラクトの中で見た火災発生時の立体映像には、聖なる虹の橋(イリスとビフレスト)の黒ローブの三人組がしっかりと映っていたからだ。


 万に一つの可能性として、斥候部隊が聖なる虹の橋(イリスとビフレスト)の連盟政府内での評価に影響するように格好を偽ったかもしれない。実際のところ、聖なる虹の橋(イリスとビフレスト)は軍部そのものを寄せ集めと蔑み、一方の軍部は聖なる虹の橋(イリスとビフレスト)が政府直属という立場であり軍部よりも上であることが気にならない。お互いに反目し合い、関係良好というわけではない。


 だが、軍斥候部隊が黒ローブを羽織り自らの立場を偽ったとしても意味が無い。


 聖なる虹の橋(イリスとビフレスト)は隠密であり、民間人は知らない存在しない部隊。つまり、姿を偽ってどれだけ多くの民間人の前にこれ見よがしに現れようと、正体所属不明の何者かが火を付けたという認識にしかならない。それでは連盟政府内での覇権争いも何もない。

 聖なる虹の橋(イリスとビフレスト)が斥候部隊に罪をなすりつけるために変装するというのならまだわかるが、斥候部隊が存在しない部隊に変装する意味は、都市伝説でも作ろうとしない限り意味が分からない。


 逆に共同作戦をしたと仮定すると、それも話は合わない。


 聖なる虹の橋(イリスとビフレスト)が斥候部隊に足並みをそろえるというのは、組織の独自性の強さに加えて、反目し合うと言う点があるとますます不可能だ。そして、そもそも聖なる虹の橋(イリスとビフレスト)は単独行動が原則であり、仲間内でも手を取らないというのに他組織などと共同作戦などを行える連中ではない。


 また別に、全くの偶然で別々に行動していたものの一致だとしても、クロエの言った単独行動と作戦中のみ黒ローブ着用の原則により、聖なる虹の橋(イリスとビフレスト)の関与を否定される。



 違和感は一つではない。レア自身に対する違和感だ。


 村人に死傷者はなく、別の場所に(ノイエ)ブルンベイクを築き始め、二人の行方不明者を除いて村は回り始めているようだ。ノイエブルンベイクの場所は例の秘密の避難場所だったのだろう。焼け跡で会った男は村民の避難場所は秘密の場所と言っていた。

 しかし、レアは商人でありほぼ部外者であるにもかかわらず、そこに火災直後に訪れている。


 そして、その男はモギレフスキー夫妻が行方不明だと言っていた。一方のレアはノイエブルンベイクの誰もが行方不明だと思っている二人を行方不明者だとは言おうとはしない。

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