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黄金蠱毒 第二十話

「道理で血を辿って路地裏を探しても死体が上がらなかったわけですなぁ。イズミ殿も人が悪いですぞ。報告していただければいいものを」

「はっはっは、前後の上腕回旋動脈の間を撃たれて生きながらえたのは褒めてやるよ。それにしても、無駄な負傷だったねぇ。路地裏で犬死してカラスに食われなかっただけマシか。左肩は傷むかい、連盟政府の犬っころ?」


 ジューリアさんはウィンストンに続き、顔を上げると笑いながらそう言った。クロエは二人の発言に気色ばむようになると、「……幸いにもイズミさんに丁寧に治していただいてので問題ありません」と言い返すようになった。そのまま表情をムッとさせていたが、気を取り直すように目を深く閉じると息を吸い込んで俺の方を向いた。


「イズミさん、私の情報は私の口から伝えてよろしいですか。間違っていたり不足していたりなら、割って入って訂正してください」


 右手を挙げてクロエに譲ると、彼女は俺が治癒魔法をかけている間に話していたことを一通り話し始めた。内容は俺たちが聞いた内容と全く同じだったので特に止めることもなく、そして、いよいよ話が終わりそうになった。ポルッカやユリナが情報がそんなに少ないわけ無いだろうといざ突っかかろうというのか、姿勢を前屈みにしようとしたそのときだ。


「そうなんだ! 僕たちは僕の黄金を探しているんだ!」


 最後まで伸びていた中年が突然目を覚ましてクロエの話し声を遮ったのだ。


「全ての黄金はもともと僕の持ち物だったんだ。全てを超えた素晴らしい力を手にした僕の所有物であると言うことは、まごうことなき真実なんだ。だけども、悲しいことにそれをいつの間にか無くしてしまったんだよ。それからさらに時間が経ってしまい、僕の所有物であることは時間の流れで風化してしまって、まるで見つけた者勝ちのような状況になってしまった。無くした物は僕自身の手で取り戻さなければいけない。でも、僕は寛大だから、その全て見つけ出してを市民たちに分け与えようと思うんだ! 僕は本来の英雄に、救世主というあるべき姿に戻りたいんだよ! 追放されてしまい全て失ってしまったが、たゆまぬ努力を続けて成り上がってきたから今も地位はあるけれど、僕はさらに地位の高い貴族の爵位について世界をもっと良くしなければいけないんだ。きっと、僕が無償で差し出した黄金たちは全知魔法の成立のために使用されることになるだろうな、うん、素晴らしい! それは市民への還元と等しい! うん!」


 起き抜けとは思えないほど雄弁に語り出したシバサキは立ち上がり、ずいずいと輪の中心に割り込みクロエを押し退けた。後ろに押し出されたクロエは視線をぎょろぎょろ動かして天井を見た後にうんざりしたように首を回している。

 聴衆は口を開けてシバサキをぼんやり見ていたが、ユリナはシバサキを指でさしてクロエに顎を振った。


「おい、PTA。そこの寝言抜かしてるお前の上司をもういっぺんお花畑に送って差し上げろ。話ややこしくさせんなって。お前もあからさまにうんざりしてんじゃねぇか」

「そうだな、連盟の犬。そこな意味不明な中年はお前の仲間なのだろう。うさんくさい民間団体と一緒に黄金探しなど同意できないが、それを黙らせろと言う点は同意だ」


 ユリナに続くようにポルッカもそう言った。

 クロエの話も大方終わっており、シバサキを何かしらの方法で退場させて再び話を始めようと俺は立ち上がった。

 だが、セシリアが突然俺の服の裾を強く掴み始めたのだ。どうしたのかと思って彼女の方を見ると、掴んでいた手は震えており、額には脂汗を浮かべていた。

 セシリアはときどき熱を出してしまうことがあり、手足の振戦や異常な発汗はよくあるのだが、今足下にいる彼女は体調によるものではなく、まるで何かに怯えている様子だった。

 次第に髪は汗で濡れてまとまり、息切れもし始めてしまった。額に手を当てるも、熱はなかった。だが、腰が抜けて尻から地面に崩れてしまいそうなので、アニエスに目配せをして椅子を二つ並べてもらい、そこにセシリアを横たえた。

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