黄金蠱毒 第十八話
ポルッカは火傷のような刺す痛みを堪えながら、震える左手を右手で押さえている。彼女の息が嘔吐くように荒いのは、杖を左手で持っていたせいで心臓にも僅かに電流が流れたのだろう。苦しそうに乱れた呼吸と脈を整えようとしながらユリナを睨みつけた。
それに応じるように睨みつけられたユリナは眉を寄せて顎を上げながらポルッカを見下した。ポルッカはその視線でユリナとの圧倒的な実力差に気がつき自分ではかなわないと悟ったのか、歯を食いしばりながら立ち上がると、ふらつきながら椅子に向かい大人しく座った。
ポルッカの敗北にユリナは満足げな笑みを浮かべ数回ゆっくりと頷くと、俺の方へ掌を差し出して話を促してきた。俺は辛そうなポルッカに治癒魔法をかけながら話を再開した。
「さて、ルカちゃんがご機嫌斜めなのでこちらの民間の先史遺構調査財団が掴んでいる情報も発表しましょう」
「おーい、おいおい! ちょ、ちょちょちょ、ちょーっと待ーて待て待て待てーい!」
しかし、にやにやと余裕の表情を見せていたユリナがすぐさま焦りだし立ち上がって俺の話を止めた。
「こっちこそなんでハンパ白髪どもに情報与えなきゃいけないんだよ!?」
俺は特に答えずに、焦り始めたユリナをちらりと一度だけ見た後、再び話を始めた。
「ここ、クライナ・シーニャトチカにはエルメンガルトという、ブルゼイ史に詳しい歴史学者がいます。本名は、エルメンガルト・コーザグシヒト・プロフ・シュテール。かつてはエイプルトンの歴史学の教室長として教鞭を振るっていた人です。で、今のところ、一番黄金に近いのはそのエルメンガルト先生だと考えられます」
無視して話を続けると、ユリナはだんだんと足をならして目の前まで迫ってきて、胸ぐらを掴んできた。
「おい、イズミ、てめーどういう了見で言っちまいやがるんだ? 殴り飛ばすぞ? あ? コラ」
「やってみろ。深刻なシェル・ショックにしてやろうか? 殴りたければ殴れ。俺は止めないぞ」
掴んでいたユリナの右手がギリギリと震えると青筋が立っている。
襟首が閉まるような感覚で息が止まりそうになった。思い切り殴られてしまうだろうと思い歯を食いしばったが、舌打ちを浴びせられて投げ捨てるように放り投げられただけだった。
痛い思いをしなくて良いことに少し安心した俺は上着をただして、ユリナが椅子に戻りテーブルに足を載せて腕を組むのを見届けると、咳払いをして続けた。
「昨日、そこにいる先史遺構調査財団から派遣された三人が保護しました」
「なんだと!? おい、うさんくさい民間団体! 貴様らには手に余る。今すぐ我々北公に引き渡せ。私たち北公がしていることは民間人が首を突っ込んで言い物ではない」
まだ息が粗い様子が残っているポルッカが再び椅子から勢いよく立ち上がると、ユリナを指さして怒鳴った。ユリナは鬱陶しい者を遇うように首をぐるりと回すと、髪の毛をバサバサと掻きながら顔をしかめた。
「あーもー、面倒くせぇな。いちいちキャンキャンうるせぇんだよ、ハンパ白髪はよぉ。イズミ、お前マジで何考えてんだ?」
ユリナが不機嫌になりつま先で貧乏揺すりを始めると、彼女たちのいるテーブルがカタカタと音を立て始めた。劣化で脆くなっているテーブルは、ギシギシと腐った木材同士がこすれあい互いを削り合い、今にも崩れてしまいそうな音を立て始めた。
しかし、それに被せるように突然クロエが高く笑い出したので、一同の視線がクロエに集まった。