黄金蠱毒 第十七話
「やっぱり、モン……ムーバリ上佐がいたほうがよかったな。あいつクソ野郎だけど、話はとりあえず最後まで聞くんだよな。
そうか。わかった。この様子じゃ、カルルさんとムーバリ上佐に今日のことがキチンと伝わるかも怪しいな。二人には後で俺から直接報告しておくよ。
ポルッカ・ラーヌヤルヴィ下佐はムーバリ上佐と協力して行っている黄金探しには非協力的で、その協調性のなさを遺憾なく発揮するには、実戦よりもノルデンヴィズにある軍事務所の椅子に座って判子押すだけの仕事の方がお似合いです、と。そうすりゃあ、もっと優秀な、いや、まともなヤツを寄越してくれるだろう」
アニエスが彼女を徴発してはいけない、とたしなめるような視線を送ってきた。わかってはいるが、先ほどの喧嘩とはワケが違う。ここは何が何でも従わせなければいけないのだ。
思った通り「ふざけるな! お前こそ自分に有利なことしか伝えないに決まっている!」とポルッカは声を荒げて、左手で構えている杖先を二、三度振り俺の方へと一歩ずつ歩み寄ってきた。
「お前は調子に乗りすぎた。お前の傍には我が北公の総統、カルル閣下が直々に任命された特別隊長であられるアニエス中佐殿がいることを忘れたか。中佐殿がいる限りお前もそこの子どもも、常に北公と言う大きな手の中で生かされていると思え。それでもなおこういった侮辱を続け妨害をするのなら、我々北公は全力を持ってお前を排除する。中佐、構いませんね?」
突然話を振られたアニエスは「えっ、はい!? わたっ!? えっ!?」と驚いたように肩を上げると目を見開いてポルッカを見た。そして、困ったような顔を俺に向けてきた。
そんな顔はしなくて良い。俺はアニエスを信じている。というか君はこの女の上官だろうに。
「そうか、また俺を捕まえるのか。でもさぁ、この間俺を捕まえた後、どうなったか覚えてるか? ああ、あのとき俺はアニエスにしこたま殴られたっけか。ははは。
……そういえば、さっきルカちゃん下佐は部屋の隅っこで失神してたから、あの魔法喰らってないんだよな? もう一発やるか? 安心してくれ。今度は逃げ出さない。真正面から立ち向かって、ルカちゃまがお話を聞いてくれるまで何度でも繰り返し失神させてやるよ。後ろの二人は申し訳ないけど、ルカちゃまより失神回数が一回多くなるな。悪く思うなよ」
そして、応じるように俺も杖に手をかけた。
「ボンクラのくせに何が出来る! 私の魔法展開の方が速い! 馬鹿者!」
ポルッカが杖を振り魔法を放とうとしたそのときだ。じわじわと言う音と共に電弧放電のような橙色の揺らめく閃光が視界の隅から伸びてポルッカの杖にあたった。ポルッカが悲鳴を上げると杖は弾かれるように飛び地面に落ちた。黒檀の杖は金属で出来ている石打が赤くなり、そこから煙を上げている。
「イズミ、それやめろー。私は二回も喰らってんだぞ? これ以上喰らったらシェル・ショックになっちまう」
ユリナは頭の上で人差し指を二、三度回して手に平を開いた。
彼女はまたしてもテーブルの上に載せたつま先で杖に触れて魔法を起こし、ポルッカにぶつけたようだ。しかし、今回は杖だけを狙ったようでポルッカが失神することはなかった。