黄金蠱毒 第一話
勢力を一堂に会させる場所はどこがいいか。それで悩むことはなかった。
まず最初に行われる話し合いの場所を見つけるために、どこか手頃な場所はないかと無人エリアをふらふらと歩いていた。
顔を合わせるのは、政治的にも軍事的にも、それ以外にも対立している者たちばかりだ。それに加えて血の気の多い猛者が集まるので、小競り合いを回避することは出来ない。参加者の中から怪我人が出るのは仕方が無いとして、無関係なクライナ・シーニャトチカ村民には迷惑をかけるわけには行かない。
参加予定人数も少なくなく、尚且つ暴れても差し支えないほどの手頃な広さがあり、ある程度片付いているほうがいい。
そこで、ふと以前から目に付いていたやや大きめの建物を思い出してそこへ下見に向かった。村北東部の無人エリアにある元々は酒場の廃屋だ。
店の前に立ち改めて見ると、窓ガラスにはひびが入り、壁や柱の足下には砂がつもり、そこから乾いた雑草が生えていて相当に古く、そして放置され続けた建物のようだった。しかし、石造りなので古さはあっても倒壊寸前というわけではなさそうだった。
石灰岩か何かで出来た白い壁の間には積まれたレンガのアーチがあり、それに囲まれるようにはめ込まれているドアがあった。ドアに押すように触れると、錆びて赤く脆くなっていた蝶番が金具が弾けるような音を上げて外れ、それによって固定されていたドアが内側に倒れていった。
倒れたドア板で舞い上がった薄黄色の埃が晴れていくと、次第にがらんとした元店内が見渡せるようになっていった。外から差し込んだ光に照らし出された床も壁も天井の角も、そして燃料などとうの昔になくなった照明さえも、蜘蛛の巣とどこからか吹き込んだ砂と埃だらけだ。内側は外よりも埃っぽく、中に入り歩く度に肌に砂が付き、水分を奪っていくようで痒みを引き起こしそうだ。
壁の隅には使われなくなったテーブルが寄せられて、その上に椅子が逆さに置かれている。埃だらけのカウンター越しに見える棚は、不自然なまでに瓶が一つも並んでいない。近づいてよく見てみると、埃の上にできた丸い模様の上にさらに埃が積もっている。おそらくエルメンガルトか誰かがここにあった酒をほとんどくすねていたのだろう。
窓ガラスは外から絶えず吹き付ける砂埃で黄色くくすみ、外から差し込む光でこびりついた汚れの陰を木製の床に落としている。外の様子は見づらくなっているが、ひびこそあれどどこも割れていなかった。
カウンターに近づくと硬くひび割れるような音がした。どうやらガラスの破片を踏んづけたようだ。足下を見てみると、残った瓶が何かの拍子に床に落ちたのか、粉々に割れて散らばっていた。ずっと昔に、それこそまだ人がいた頃に落ちたのだろう。破片にも砂埃がまとわりついている。
右手をセシリアとアニエスの前に出して行く手を遮り、二人を一度立ち止まらせた。そして、足下を確かめながら進むことにした。
慎重に歩みを進め、真ん中まで移動して店内全体を見回した。
窓は割れておらず、表のドアは外れてしまったが直すことも可能な程度だ。さらに残された椅子やテーブルも埃だらけだが、乾燥地域のおかげなのか腐食は進んでおらず使えないほどではなかった。
どうやら思ったほど荒廃しきってはいないようだったので、ここを集会所にしようと決めた。
早速、窓と裏口を全開にして三人揃って廃屋を出た。そして、入り口付近から強烈な風を起こして埃を大雑把に払い、テーブルとその上に乗せられていた椅子を数個ほど並べて軽く上を拭いた。
準備が整うと、俺たちはそれぞれの勢力にそこに来るように連絡をした。