スプートニクの帰路 第三十八話
「ははは! ルール守って楽しく協調戦略! さて、うまくいくかなっと」とユリナは移動魔法を唱え始めた。すぐさまポータルが五十センチほど開き、そこへ首を曲げて覗き込むと表情を明るくした。
「おっし、繋がった繋がった。空路でも自分で来たことになるのか! やっぱ便利だなー。これで私はここへの行き来は簡単になったわけだ」
小窓のようなポータルの前に立ち、ガマズミの杖を持ち上げてポータルの縁をぐりぐりと押し広げ始めた。そのまま後ろを振り返ると、「これで飛行機は帰すとして。おい、フラメシュ大尉! ジューリアがへばってるから、タキシングしてハンガーに止めてこい! ぶつけんなよ!」と大声で指示を出した。
フラメッシュ、と呼ばれた見覚えのある女中部隊の一人が敬礼をしてゴフ・バードに駆け足で乗り込み、後部タラップの横にあるレバーを操作してタラップを格納した。重苦しい金属の音がしてタラップが閉じきると、まもなくゴフ・バードは動き出し始めた。プロペラを回さずゆっくりと大きく転回して、ユリナが押し広げているポータルへと向かっていった。
ポータルの向こう側はグラントルア郊外のあの基地のようだ。見覚えのある砂地の先に小さく見えている飛行船の格納庫が背の低い陽炎の中で揺れている。
ギンスブルグの屋敷で見たことのある女中部隊の別の一人が飛行機の前に出ると赤と緑の手旗を振り始めた。それに従うように飛行機がゆっくりと動き出し、大きく開かれたポータルに誘導されていった。
そして、ゴフ・バードと入れ替わるように今度は共和国軍の部隊がどやどや入ってきた。クリーム色や茶色の迷彩服を着て、ゴーグルとマスクを付け、顔までしっかりと覆われた兵士たちが隊列を組み、装甲の厚そうな車両とともに現れたのだ。
「おまえらー、設営しろ! ここが黄金探しの私らの拠点になるぞー! クソのときにケツ穴が砂だらけになりたくなければ、さっさとやれ! それからこの滑走路も整備しとけ! “しばらくは”使わないが、いつでも使えるようにしとけ!」
ユリナは大声を出して指示をした後、俺たち三人の方を見た。そして、「設営は任せるとして、お話ししようか」と親指でポータルを抜けてきた車の一台を指さした。トラックほどの大きさがあり他の何台かよりも一回り大きく、バンパーや分厚い金属の板があちこち付けられており、窓ガラスも格子で覆われている。装甲車のようだ。