スプートニクの帰路 第三十一話
アニエスの言うとおり、黄金など渡してしまえばいいと言う結論に至った。しかし、北公、共和国の連中はまだしも、連盟政府などには嘘でも渡したいという気が起きない。言わずもがなあの男が大きく関与しているからだ。器が小さいと思いたければ好きにすればいい。差し出すことに積極的になれない理由は、それ以外の厄介が起きるかもしれないからだ。
「ではなぜあなた方は黄金郷を探しているのですか?」
「勝手にべらべら喋らせたが、聞いちまった以上言わないとな。セシリアに故郷を見せるためだ。その故郷に黄金がたまたまあっただけだ。黄金そのものに用はない」
見つけるにしろ、見つけられないにしろ、いずれにせよ使える状態にまでするには時間と手間がかかる。戦争はそのうちに何かしらの終着点に落ち着かせてしまえばいい。
ルーア共和国首脳陣は和平派を謳っており、突如参戦し連盟政府に攻め込んでくるというのは考えにくい。
ユニオンで不穏当に動いている亡命政府は元はと言えば帝政ルーアだ。だが、それも裏を返せばユニオン内部のみでの内乱と等しく、ルーア共和国は現状静観している。知っている限りでは、ユニオンと連盟政府の対立の場であるマルタン戦線も冷え切っていた。
目下強烈に争っているのは、北公と連盟政府だけだ。北公だろうが連盟政府だろうが、どちらが勝っても負けても、犠牲を出さずに戦争終わらせられるならそれでいいのだ。
「ならばいいではないですか。いらないというのであれば、私たちにくださいな。金の比重は高く、少量でも重くかさばります。いらない物を持っていても邪魔なだけですよ?」
それはよく知っている。金は水の十九倍重たい。だが、セシリアのコートにしまい込んでしまえば問題にはならない。しかし、セシリアはまだコートの使い方を思い出しておらず、手で持ち運びをしなければいけない可能性を考えると確かに邪魔でしかない。
それでも、だとしても、連盟政府には渡したくないのだ。そうなると北公か共和国に有利になるのは明らかだ。現時点で俺の中では、戦争利用に限りなく近い軍資金を得るためというファジーな目的を示している北公よりも、先進的技術利用を目的として持つ共和国が一歩リードしている。
だが、俺はどちらかに肩入れをしているわけではない。個人的な感情で動くのは良くないのはわかっているが、連盟政府はアニエスの故郷を焼いた連中の母体であることが俺は気に食わない。
「魔力絶縁性で魔力増幅をさせて、一体どんな殺戮をするつもりだ?」
殺しを行うことを前提としたような尋ね方をすると、クロエは呆れたような顔になった。
「イズミさん、あなた、金の価値を何一つわかっていませんね」
「わかってるつもりだが? 魔力絶縁性だろ?」
そう言うと、呆れたまま再び鼻を鳴らした。